空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、気象予報士寺田サキ氏の原稿を特別に掲載します。
地球全体が凍結していた過去
近年は地球温暖化が進んでおり、生態系や環境に影響を及ぼしています。
温暖化は人間活動が要因ですが、地球の長い歴史を振り返ると、これまでに何度も地球の環境は大きく変わってきました。その大きな変動の中で、実は地球全体が凍っていた時代があるのです。
地球全体が凍結したことを「スノーボールアース(全球凍結)・イベント」と呼んでいます。
一番古くて約23億年前、次いで約7億年前と約6億万年前の、少なくとも3回の全球凍結が起こったといわれています。
マイナス40度~マイナス50度の地球
なぜ、過去の地球の状態を把握することができるのでしょうか。
地球の過去を知るには、岩石や地層から過去の地磁気を測定する「古地磁気測定」という方法があります。
地磁気とは地球が持つ磁気や磁場のことです。岩石などに残留する磁気を調べることで、当時の地球の情報がわかります。
古地磁気測定により、全球凍結が起こった証拠が見つかりました。通常は高緯度域で形成される氷河性堆積物の地層が、赤道域で見つかったのです。
つまり、氷床や海氷が、地球で最も暑いはずの赤道域まで広がり、地球全体を覆っていたということです。全球凍結が起きた地球の平均温度はマイナス40度~マイナス50度ほどで、現在の平均気温である約14度と比べると非常に低温だったことがわかります。
海の水は凍り、海氷の厚さは約1000mだったと考えられています。
全球凍結の理由とは?
なぜ全球凍結が起こったのか。その原因は未だわかっていませんが、地球を温める効果のある「温室効果ガス」が何らかのきっかけで急激に減ったため、赤道域まで凍ってしまったようです。
反対に、全球凍結が解消されたのは、温室効果ガスが増えたためと考えられます。
火山活動によって火山ガスが放出され、その中に含まれる二酸化炭素などの温室効果ガスが空気中に蓄積されて地球が温まっていきました。
全球凍結から脱出した地球は、平均気温が約50~60度に達したと考えられ、地球環境は急激に変化しました。
地球の表面が全て凍ってしまうと、地表の水もなくなってしまうため、生物にとっては生命をおびやかす危機的な出来事です。
しかし、約6億年前に存在していた藻類のような真核生物は、全球凍結後も生き延びています。
どのように生物は生き延びたのでしょうか。この疑問はまだ解決できていません。
生物の大進化!?
赤道域は完全には凍結していなかった、火山の周辺では地熱によって氷が融けた場所が存在していたなど、いくつかの仮説があり、そこで生物は数百年~数千年続いた全球凍結の間も生存していたと考えられています。
さらに、全球凍結から脱出し、地球環境が激変したことで、生物の大進化が起こったともいわれています。
約23億年前のスノーボールアース・イベント直後は真核生物が出現、約6億年前のイベント直後は多細胞生物が出現したと考えられています。
全球凍結は地球の歴史の一部分です。
他にも地球では大規模な変動があった末に、現在のように生物にとって恵まれた環境ができています。自然の偉大さを感じるとともに、人類の進化は地球の変動のうちの小さな奇跡のように感じます。
【参考文献】
『46億年の地球史:生命の進化,そして未来の地球』(田近英一著、知的生きかた文庫、2019)
“全球凍結と生物進化”田近英一(2007).Journal of Geography、116(1):79-94. OpenGeology「Historical Geology(Snowball Earth)」
https://opengeology.org/historicalgeology/case-studies/snowball-earth/
(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)
寺田サキ(てらだ・さき)
気象予報士・防災士 1990年茨城県生まれ、沖縄県出身。琉球大学理学部海洋自然科学科卒業。2021年に気象予報士を取得し、民間気象会社にてメディア向け原稿執筆やラジオ番組の天気解説を担当。2023年からフリーランスの気象予報士として、気象記事執筆や講演活動、出前講座などを行っている。現在は琉球大学大学院理工学研究科に在籍。編集協力に『雲の超図鑑』(荒木健太郎著/KADOKAWA)、『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎著/ダイヤモンド社)などがある。
Instagram:@saki_terada39