そして、もっと多様なほめ方ができるようになるために、語彙を増やさなくてはならないのである。というのも、「わかりやすい」と褒めた人にさらに質問をしてみると、理解が容易だったから褒めているのではなく、本当は別のことを言おうとしているにもかかわらず、言葉としては「わかりやすい」を使っているという場合が多く見受けられるからだ。

 つまり「わかりやすい」という言葉が、多様な意味を包含した概念になっているのである。「かわいい」という言葉の使われ方の融通無碍さに通じるものがあるかもしれない。

「わかりやすい」の言い換え可能表現

 たとえば、「わかりやすい」という言葉に包含されている意味としては下記のようなものがある。本来は「わかりやすい」ではなく、下記の語彙を使って褒めるべきと考えられるものである。

・説得力がある(論理構成が正しく、エビデンスが強い)
・論旨が明快である(何を主張したいかが整理されている)
・洗練されている(文章の流れや言葉遣いが流麗であり、快感が呼び起こされる)
・バランスが良い(さまざまな視点を公平に扱っている)
・描写が鮮明である(内容が手に取るように把握できる)
・構成が巧みである(組み立てやプロットがよくできている)
・洞察力がある(新しい知見や観点を明確に指し示す)

 などであるが、他にもあるだろう。

 よって、あまり考えることなく「わかりやすい」と発信してしまう前に、自分の表現したいことを見直して、上記のような具体性の高い語彙に変換して表現するほうが、褒められたほうには正しく意味が伝わるのである。そして、そう言い換えたほうが、自分も、受けた印象を正しく整理して理解できる。