2003年以来、筆者はすべてのサンタアガータ製V10ロードカーを試す機会に恵まれた。ガヤルドとウラカン合わせて3万5000台以上に達したV10・NAミッドシップスーパーカーのデビューが筆者のフリー人生のスタートとほぼ重なっていたこともあり、個人的にも思い入れが深い。
それゆえ集大成を飾るモデルとしてRWD(後輪駆動)のミッドシップスーパーカーが登場したという事実に感慨ひとしおだ。実をいうと、ウラカンの最終モデルはテクニカではなかった。最後の最後としてAWD(四輪駆動)の限定モデル、ステラートが発表された。それは未来のスーパーカーへの示唆に富むモデルである(ランザドールの前触れだ)。
思い返せば当初5LだったV10自然吸気エンジンの最高出力はたったの500psだった。現在では平凡な数値である。だが、当時のライバル、フェラーリ360モデナはV8・NA+RWDで400psだったから、500psでも驚異的だった。当時のランボ技術陣は、「500psを安全かつ効果的に路面へと伝えるために4WDを選んだ」とわれわれに説明してくれた。しかし、その6年後の2009年にはシャシー制御の進化に助けられて550psのRWDを登場させている。以来、サンタアガータ製V10ミドシップシリーズのカタログにはAWDとRWDというキャラクターのまるで異なる2系統が存在する展開になった。
そしていまや、640psの最高出力を誇るV10・NAエンジンをAWDのみならずRWDモデルにも搭載する。これぞ20年間の進化のなせる“技”というものだろう。
ウラカン・テクニカは標準モデルのウラカンEVO・RWDと、サーキットスペシャルのウラカンSTOとのギャップを埋めるために生まれた。何度もいうようだが、限定車ではない。シリーズモデルだ。けれどもウラカンそのものの生産終了の時期が迫っているから、もはや期間限定車のようなものではある。
硬質だが心地いい走行フィール
走るほどドライバーと一体になる
パワートレーンをはじめシャシー制御の数々はSTOのそれを踏襲したうえで、スタイリングをよりロードカーらしく仕立て直している。STOはその名のとおりスーパートロフェオ用のレーシングマシンに近いデザインで、ド派手さが最大の魅力でもあった。テクニカはそれに比べるとずいぶんと大人しい。いわばウラカン版“ウルティメ”だ。
だが、スタンダードモデルと比べると、雰囲気はかなり異なる。エアロダイナミクスや冷却性能の向上の結果として改変されたフロントの特徴的なデザインは、電動コンセプトカー“テルツォ・ミッレニオ”を彷彿とさせ、最新フラッグシップのレヴエルトとの共通性も感じる。伸びた全長とサイドウィンドウ周辺のデザイン変更によって、真横から見たスタイルにはサーキット専用モデル“エッセンツァSCV12”との近似性さえ見出せる。テクニカのトップスピードは325km/h、0→100km/h加速は3.2秒でクリアする。パフォーマンスも完熟ウラカンにしてシリーズベストといえる極みに達していた。