もっとも、M&A後にグループの力で対象会社の事業が急カーブで成長していけば、経営者もメンバーも、仕事そのものの面白さを存分に味わうことができます。これが一番本質的なモチベーション向上策といえるでしょう。親会社として、ジョインした会社の成長を加速させるためにいかに協力できるか。すなわち子会社からTakeするだけでなく、Giveも積極的にしていく姿勢を持っているかどうかが、スタートアップM&Aの成否に大きく影響します。
たとえば、ジョインした会社の経営者の片腕となるよう、親会社のエース級の人材を派遣する例などは、まさにGiveの施策です。グループインによるメリットを双方で実感できればグループ内の機運も高まり、さらなる成長の加速が期待できます。
誰もがハッピーになれるM&Aは、グロースと買収金額にあり
以上、スタートアップM&Aの概略をつかんでいただけるようご説明しました。M&Aの買い手、および対象会社の経営者視点で見てきましたが、最後に少しスコープを広げると、M&Aという一大イベントに関わっているのは、この2者だけに留まりません。VCなど、対象会社に経営者以外の既存株主がいれば、彼らもまた売り主になり得ます。M&A後の親会社の方針などによっては、顧客や取引先との関係にも変化が起きる可能性もあります。
M&Aの成否を語るうえで一番望ましい成功とは、ステークホルダー全員の満足度が高い状態でしょう。そのためには、①譲渡対価の設定が各買い手、売り手にとってWin-Win、②対象会社の事業がグループイン後に急成長する──この2つの条件がそろっている必要があります。
M&Aの成功率は一般に約3割と言われており、スタートアップM&Aにおいてもおそらくは同様でしょう。M&A交渉の過程では、さまざまなシナジー創出に向けた施策が話し合われていたにも関わらず、成約後に取り組みが頓挫してしまう、社風のミスマッチから対象会社に大量の退職者が出てしまうなど、ネガティブな結果に至るパターンもさまざまあります。そうした中、過去の成功事例、失敗事例から得られた教訓が、今後よりオープンに語られるようになっていけば、スタートアップM&Aの成功率も徐々に上がっていく可能性があります。
連載の第3回以降は、こうした課題認識に基づき、ゲストとの対談をお送りする予定です。ゲスト自身のM&A経験をベースに、後に続く方々にとって学びとなるポイントを探っていきますので、引き続き連載をお楽しみいただければ幸いです。