現状シェアリングサービスなどで提供されている電動キックボードは特例的に「小型特殊自動車(小型特殊)」として扱うことでヘルメット着用任意、時速15km以下で運用しているが、改正道交法が施行されれば要件を満たす車体は特定小型原付扱いとなり、免許の有無を含めてより柔軟な利用が実現すると言える。

これまでの「特定小型原付」は「電動キックボード」とほぼ同義で論じられてきたケースがほとんどだ。だがglafitでは今後、特定小型原付に適合する新たなモビリティを開発することで、「自転車のように手軽に、バイクのように遠くへ楽しく移動ができる世界の実現を目指す」(glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏)と語る。デザインなどは現時点で公開していないが、同社の電動バイク・自転車切り替え機構を持つモビリティ「GFR」シリーズをベースにした、座席つきの二輪の電動車両になるもようだ。

現状で特定小型原付車両について語ると、ほぼイコールで「電動キックボード」と言われますが実はそうではありません。

特定小型原付の区分が発表されてから、提携の打診を多くいただきます。免許不要でヘルメットの着用が努力義務となると、シェアリングでのニーズが高いからです。観光地のシェアサイクルの代替としても、都市部での移動でも、相談が来ます。ですが皆さん、電動キックボードありきの話でした。そんな中、電動キックボードではなく新しい車体でのシェアリングサービスの話をいただいたのがOpenStreet社でした。

とはいえ、私たちは決してキックボードタイプの車両を否定しているわけではありません。glafitも立ち乗り型の電動スクーター「X-Scooter LOM(LOM)」を提供しています。ですが「みんな」に楽しく移動してもらうためには、キックボードタイプではなくて、椅子のついたスクータータイプの車両をベースにするのがいいだろうと考えています。

glafit 鳴海禎造氏

鳴海氏が語る「みんな」とは、高齢者などを含めた言葉だ。現状、免許を返納した高齢者がラストワンマイルを移動するには、徒歩を除けば自転車か時速6kmしか出せないシニアカーしか選択肢がない。スクータータイプと比較してタイヤ径が小さく、振動に弱いキックボードでは、幅広い層の“足”になることが難しいと指摘する。

glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏
glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏

また、これまでglafitはモビリティとセットでソフトウェアの開発も進めてきた。だがスタートアップでもある同社がハードとソフトの両面を開発することは難しい。そこでシェアリングのプラットフォームを展開するOpenStreetと組むことで、ハードとプラットフォームを含めたソフトの開発を分業する。当初から数千台単位の車両を用意してサービス展開を目指す。すでに約1年間提携に向けた話し合いを進めてきたという。

さらに、新車両はシェアリングサービスで利用するだけでなく、販売も視野に入れる。

自分の所有していないものを使うことはあり得ないと考える人も、身の回りのものはすべてシェアリングエコノミーの恩恵を受ければいいと考える人もいます。でも大多数の人は所有もするし、場合によってはシェアも利用するはずなんです。

私自身も和歌山にはマイカーもあって、glafitの車両にも乗りますが、東京であれば車をレンタルするし、タクシーにも乗ります。シェアサイクルも利用します。それらの融合はどういうかたちがあるかを模索しています。マイクロモビリティでもCASE(Connected:コネクテッド、Autonomous:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動)を考えないといけません。

鳴海氏

モビリティシェアサービス、すでに「自転車」だけの戦いではない

OpenStreetは、ソフトバンクの新規事業提案コンテストから生まれた社内ベンチャーで、現在は東日本旅客鉄道などソフトバンク以外の資本も入っている。

同社が提供するシェアサイクル事業「HELLO CYCLING」は都心部こそ競合であるNTTドコモ傘下の「ドコモ・バイクシェア」にポート数で劣るが、自治体や地域ごとの事業者と連携して全国5700ポート以上を展開する国内最大級のシェアサイクル事業者。自転車だけでなく、電気自動車や電動スクーターのシェアサービスなども展開する。