前者はすでに投資しているため、ダウンラウンドを避ける、新規ラウンドのバリュエーションを上げる(前回の投資分をマークアップできるため)インセンティブが一定働くため、高い価格でプライスされる傾向があります。必ずしも上場株のバリュエーションが正しいとは言えませんが、このような既存投資家リードのラウンドが増えていること自体が、日本のスタートアップ市場と上場市場のバリュエーションの乖離(かいり)、また調達環境の悪化を表しているといえるのではないでしょうか。
2022年に注目した・盛り上がったと感じる領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
市場が非常に悪かったので、特に盛り上がった業界はなかったのではないかと思います。
2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化すると予想しますか。
マクロ環境に大きく左右される部分は引き続きあると思いますが、テック企業のバリュエーションが以前のような高い水準に戻る可能性は低いと考えます。これに伴い、スタートアップの調達環境も引き続きバリュエーションの調整がつづくと考えます。
また、日本のVCにはまだ大きな投資余力があるとはいえ、投資余力の額にも限りがあるので、特にレイトステージにおいては今まで以上に選別が進むと考えられます。選別の要素としては、事業ドメインはもちろん、上場時あるいは上場後に上場投資家の期待値をコントロールしながら、投資家の期待値を毎決算上回ることができる経営陣なのかといった点も重要になるかと思います。上場時には比較対象が他の未上場企業、競合他社だけではなく、上場投資家が投資できる企業、すなわち上場企業すべてとなるため、より魅力的である企業であることが求められます。
また、前回のプライベートラウンドより大幅に低いIPO価格での上場、さらにそのIPO価格から大幅な株価の下落を見せる新規上場銘柄がいくつか見られます。こういう事例が今後増えることが予想され、それによる海外投資家の日本市場離れ、また、個人投資家の損失につながり、資本市場全体にとってメリットは非常に少ないように感じます。
前回ラウンドよりもIPO価格が下回る中でも起業家がIPOを選ぶ背景のひとつに、前回ラウンドより大きく下回る価格でのM&Aを通しての売却イグジットになると、優先株の条項により、IPOでのイグジットと比較して通常普通株を多く持つ起業家に売却資金が多く入らない可能性があります。
長年企業の成長をけん引してきた起業家に適正な報酬が支払われるべきだと思う一方、それがIPOに参加した投資家の損失によって補われるものであるべきだとは思いません。日本は世界で有数のIPOがしやすい国であると言われています。これは当然良い面もありますが、東証は再度上場条件などを見直し、しっかりと規律のあるガバナンスのきいたIPO基準を設けることが、将来の日本の上場、未上場の資本市場の発展につながると思います。