笑農和 下村豪徳(以下、下村):私は富山県の農家の長男として生まれたのですが、家業を継がずにIT業界に入りました。現在は弟が継いでいて、東京ドーム3個分くらいの広さの田んぼで、お米を1人で作っています。長男でありながら家を継がなかったことをずっと気にしていた中で、テクノロジーで農業を変えられないかという思いが起業の背景にあります。実際に、地元で高齢の方がここ数年で農業を辞めていくのを目の当たりにし、さらには意図しない形で農地が拡大されていくのも目にしました。人が減っていく中で、農業を違う形にアップデートしていかないと、いずれ維持できなくなるという危機感。そこから水田の水管理を自動制御する現在の事業を始めました。
壁は農業特有の特殊な構造
――農業が抱える課題は広く深いです。これまで事業推進にどんな障壁があり、どのように突破されていったのでしょうか。
秦:今まさに突破しようとしている最中ですね。裾野が広い産業だけに、いろんなプレーヤーが関わっていますので、スタートアップがポンっと入っていって、事業として成立させるのは至難の業です。農業の特性上、我々が収穫ロボットの対象にしているピーマンなどは、施設園芸だと1年間に1作しかできません。年にワントライしかできない中で、生産者にとって既存のやり方を変えるのは大きな変化になります。他産業であれば軌道修正も可能でしょうが、仮に失敗したら、変化のインパクトが大きく不可逆。1作の収益が悪くなると考えると、なかなかリスクを取って踏み込めません。「これは成功事例がないと広まらない」と考え、2021年に農業法人を立ち上げました。地域の生産者の方にもご協力をいただきながら、我々自身がロボットの導入実証実験をスタートさせています。
石崎:日本はカーボンニュートラルにおいて独自の取り組みを独自の体制で、かつ日本語で行っています。我々が国際承認を取ろうとすると、フォーマットがすべて違います。これが大きな壁のひとつですね。ただ、そうした壁を前にしても、農家の方々や関係者のみなさんの想いが我々を後押ししてくれています。例えば、温室効果ガスのひとつであるメタンガスを排出する稲作や、牛のゲップ。これに対し、「なぜ突然農家が悪者にされているのか?」と悔しさを胸に尽力してくれる農家の方々がいらっしゃいます。我々の事業のサポーターとなってくれる方々とお会いしていくと、壁だと思っていたものが壁ではなくなっていくのです。