“企業再生の職人”が掲げた2つの再建プラン
2021年3月にACAOの取締役会長として経営改革を任された中野氏は、就任翌月に「熱海市の再生と創生、そしてACAOの再建と創生」と銘打った“私案”を社内外で発表。ビーチ・港・駅ビルなどの整備によって、首都圏で働く現役世代や海外富裕層を熱海に呼び込む全体ビジョンと併せて、ACAOの経営改革を進める2つの具体案を掲げた。
その1つが、「ACAOが所有する不動産7%の売却」。
ここでいう7%とは、かつての稼ぎ頭だったホテルニューアカオとロイヤルウィング、それらにひもづく土地である。そしてこの“私案”はわずか1年半後には現実のものとなり、2022年12月に投資会社フォートレス・インベストメント・グループ系のShirakami特定目的会社に売却が決定。それぞれのホテルはマイステイズ・ホテル・マネジメントの運営に引き継がれた。
ACAOには創業期からの関係者を含めて株主が約500人いる。リゾート会社が看板事業のホテルを売却するという重要な決定に関して、全員の意見を取りまとめる時間はないと判断した中野氏は、「株主総会で議論はしない。トップの責任で決める」という覚悟でスピード交渉を進めた。
「企業再生を可能にするのは、意思決定のスピードと覚悟。早く決めなければ、従業員が明日にも職を失うかもしれなかった」
中野氏は、周りからどう評価されるかは一切気にしていないようだった。
売却に際しては、従業員の待遇をそのまま引き継ぐことを条件とし、雇用を守った。売却前にはホテルの一部客室を改装して単価を上げ、単月黒字化の実績も見せている。「いいものを安く提供するのをやめて、よりいいものに磨いて高く売る」というのが中野氏のビジネス流儀だ。
では、ホテルをやめて、何をするのか。
これが2つ目の経営改革案、「アーティストのパトロンが年間1万1000人集まる『ACAO ATAMI CLUB』の創生」につながる。2027年までに160億円の投資をすることを発表した同社の再生プランだ。
熱海に眠る「高級リゾート」としてのポテンシャル
中野氏が描く“未来の地図”はこうだ。
同社が保有しながらほぼ手付かずだった山林エリア約65ヘクタールを大規模再開発し、ドームテント型の宿泊施設を20棟ほど建てる。6月に鮮やかな紫色の花を咲かせる南方の木「ジャカランダ」を200本植え、オフシーズンも華やかに。
さらにビーチエリアにも高級ヴィラ12棟を建設し、こちらは旧知の建築家・隈研吾氏が設計を手がける。1棟ごとにオーナーと契約し、オーナーが使用しない期間はホテルとして貸し出せるモデルを想定している。