新たな建設計画だけでなく、既存施設のリバイバルにも着手している。例えば、敷地内の20万ヘクタールの丘陵地に位置し、600種4000株のバラやハーブを楽しめる「ACAO FOREST」。カフェや撮影スポットなどを充実させ、2023年2月までに入園料を1000円から3000円へと値上げした。実はこの決定の根拠となったのは、コンサルタントの助言やデータ分析ではない。中野氏独自の“モニターリサーチ”の結果だった。
中野氏は“モニターリサーチ”についてこのように語る。
「東京に暮らす若い人たち数組に2万円を渡して『このお金を使って熱海に行って、自由に過ごしてみて』とお願いしたのです。後から何にお金を使ったかを聞いてみたら、『お金が余っちゃった』と言うのですよ。往復新幹線代7000円、お土産代に3000円くらい使ったほか、駅前で名物のプリンを食べて、ACAO FORESTで夕方まで過ごしたけれど、それでも余ったと。それを聞いて僕は、『提供している価値に対して価格が低いのではないか』と思ったのです」
映画館では2時間過ごして2000円。一方、ACAO FORESTは優に4〜5時間を過ごせるが、その入園料が1000円。価格が3倍になれば、売り上げも3倍になる。年間来場者30万人で9億円稼ぐことができれば、従業員の給料も無理なく上げられる。たとえ来場者が20万人に減ったとしても、十分に耐えられる。むしろ「安いから」という理由で選ばれる戦略を“とらない”のが、これからの勝ち筋と見据えている。
「アマチュアの視点」を持つから、自由に未来を妄想できる
このモニターリサーチが物語るように、中野氏は「アマチュアの視点」を積極的に取り入れる経営者だ。
「僕はあえてプロの話は聞かないようにしています。専門外の、特に若い人のほうが先入観なく本質的なことを捉えている事が多いのです。それに僕自身も、観光業のプロではありません。これまで55年以上仕事をしてきましたが、8社ほど転々として、なんのプロにもなっていない。でもだからこそ“妄想”ができる。過去の実績や常識にとらわれず、自由に未来を妄想することからスタートできるのです」
ACAOにとっても、地域にとっても"よそ者"でしかなかった中野氏は、自治体や地元企業・観光・交通各社などさまざまなステークホルダーとの対話を重ねて味方を増やしている。「地域や街の発展なくして、企業再生はあり得ない」という信念によるものだ。そして、企業の再生には、「再建・創生・創造」の3つの要素が必要と中野氏は繰り返す。