牛丼チェーンの吉野家などと玉ねぎの端材から生まれたパウダーを用いてパンを開発する実証実験に取り組むなど、数は限られるもののユニークな事例が生まれ始めている。
廃棄されていた玉ねぎの端材を、高品質な“たまねぎパウダー”へ
1日に最大約700キロ、年間では250トン以上──。吉野家のセントラルキッチンでは、製造工程で大量に発生する「玉ねぎの端材」の処理に悩んでいた。
キャベツや白菜の端材に関しては動物用の飼料として動物園に寄付するなどしていたが、玉ねぎには動物が中毒症状を起こす可能性のある成分が含まれているため、同じような処理が難しい。抗菌性が高いことから、堆肥化するにも時間と費用がかかる。
結果として全て廃棄せざるをえず、年間で数百万円のコストがかかっていたという。
どうにかしてこの課題を解決できないか。そこで同社が相談を持ちかけたのが、ASTRA FOOD PLANだった。
ASTRA FOOD PLANは過熱水蒸気技術を用いた食品乾燥機「過熱蒸煎機」を開発するフードテックスタートアップだ。
同社の過熱蒸煎機は、わずか5〜10秒程度で食品の乾燥と殺菌を同時に行う。ボイラーを使わずに過熱水蒸気を発生させる仕組みがコア技術となっており、従来の乾燥技術に比べてエネルギー効率が高いのが特徴だ。食材の風味の劣化や酸化、栄養価の減少を抑えられる特性も備える。
ASTRA FOOD PLANで代表取締役を務める加納千裕氏によると、同社と吉野家では2022年の2月から実証実験をスタート。過熱蒸煎機を用いて、玉ねぎの端材を高品質な“たまねぎパウダー”に変える取り組みを続けてきた。
粉末化した玉ねぎは香りの良さが特徴で、甘みやうまみもある。ただ、吉野家の中では使い道がなかっため、パウダーの用途を考案し、売り先を開拓する必要があった。そこで生まれたのが「パンの生地に練り込んで使う」という発想だ。
ベーカリーチェーンのポンパドウルがこのたまねぎパウダーを採用したことで、工場で捨てられていた玉ねぎの端材はオニオンブレッドの原料として、有効活用されることとなった。
「オニオンスープのような香ばしい香りが特徴です。生地に少量練り込むだけでも玉ねぎの風味を出せるということで、パンの原料として採用いただきました。実際に私も食べたのですが、ものすごく美味しかったんですよ。リピートがすごく多いということで、SDGsの達成につながるからというよりは、味を気に入って買っていただけているのではないかと考えています」(加納氏)