加納千裕氏(左)と加納勉氏(右)
加納千裕氏(左)と加納勉氏(右)

良い装置を作ったのに、導入が進まない

父親の代では過熱水蒸気技術を用いたオーブンの開発や販売などに取り組んでいたが、加納氏が創業したASTRA FOOD PLANではこの技術を乾燥機に応用した。

通常であれば、大がかりな装置を1から開発するだけでも、数年〜10年単位の時間がかかってもおかしくはない。ただ、業務提携を結んでいた機械メーカーと協力し、「そのメーカーが保有している乾燥機に過熱水蒸気技術を組み込む」方法で試作品を作ったところ、それがうまくハマったのだという。

もっとも、当時から現在のビジネスモデルを思い描いていたわけではない。「良い機械ができたので、この機械を販売するだけでもやっていけるんじゃないかと思っていました」と加納氏は振り返る。

最初に対象にしたのは、米粉だった。主な目的も野菜の端材のアップサイクルではなく、穀物をアルファ化すること。米粉をアルファ化することで、グルテンの代わりとして、グルテンフリーの食材の原料などに使えるのではないか。そこに可能性を見出していた。

そんな加納氏がなぜ、野菜の端材に注目するようになったのか。きっかけとなったのが「商談で出てきた企業の悩み」だ。

機械の販売先を開拓するべく、さまざまな会社と商談をしていると、食品ざんさにまつわる話を聞くことが多かった。それもほとんどが野菜の端材に関するものだったという。

試しに野菜の端材を過熱蒸煎機に入れてみると、前処理が必要なことがわかった。加納氏たちは装置を開発してから製造ノウハウを構築するまでに1年ほどの期間を要しているが、この期間は野菜によって切り方や装置の風の強さを変えるなど、試行錯誤が続いた。

「(過熱蒸煎機の)運転を調整したり、前処理の方法を変えることで、やり方次第ではあらゆる食材を乾燥できることがわかりました。ニーズ自体も多かったので、これは野菜をやるしかないと思ったんです」(加納氏)

それでも、一筋縄にはいかなかった。装置が完成し、製造ノウハウに目処がたっても、思うようには導入が進まない。「(製造した粉末の)売り先があれば、ぜひ導入したい」。食品メーカーなどからは、そのように言われることがほとんどだった。

「結局のところ、良い装置を作っても(粉末の)出口がなければ導入してもらうことはできない。商談を続けて半年くらい経ったころ、そのことに気づきました。装置を販売するだけでは事業として難しいと考え、現在のビジネスモデルへと移行したのです」(加納氏)