リスクマネジメント上の問題点
LTCMのリスクマネジメントにはいくつかの問題がありました。
4500万ドルという1日あたりのボラティリティは、過去のS&P500の平均のボラティリティを元に算出していました。しかしこのボラティリティは一定ではありません。マーケットが暴落すると、ボラティリティは加速度的に増加します。つまり、さらに下落する可能性が高まるわけです。
6章で詳しく説明しますが、実はリターンは正規分布には従わないことが知られています。彼らもそのことは認識していました。しかしながら突発的なイベントによる大暴落(Tail Risk)を低く見積もっていたのです。
また、ポートフォリオ自体にも問題がありました。彼らは、その資金の約1/3を金利スワップ、約1/3を株式および株式指数オプションのショートによって失います。
彼らのとっていたポートフォリオは、一見通常時は十分に分散されたかのように見えますが、実はロシアのデフォルトのような異常なことが起きた場合、ボラティリティは上昇し、縮小するはずのスプレッドは拡大、そして流動性は枯渇するということが起きます。
そのすべてが彼らのとっていたポジションに大打撃を与えるものでした。
実際にはリスクは全く分散されていなかったわけです。彼らの「大きすぎる」ポジションを枯渇したマーケットで解消していくことはあまりにも不利益でした。
こういった要素はVaRには考慮されていません。
1998年9月、追い詰められた彼らは、顧客に資金を募る手紙を送りますが、新たな資金を獲得することはできず、1カ月もしないうちに破綻状態となり、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)による救済措置がとられることになります。