「トラウマの影響をなくす方法を教えましょう」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
トラウマの影響力をゼロにしよう
誰しもトラウマはありますが、それが現実にどれほど影響を及ぼすかは個人差があります。
過去に自分よりもひどい目にあっているのに、自分よりも立派に生きている人がいたら、劣等感を感じることはありませんか。
この劣等感が強い人ほど、自動思考の影響が大きく出ています。
起こってしまった過去は誰にも変えられませんが、その影響力には個人によって、大きな隔たりがあるのです。
それを簡単な公式にして考えてみると、
「トラウマ」×「自動思考の影響力」=「現実への影響力」
となるイメージです。
どれだけ強烈なトラウマがあったとしても、自動思考が鈍感だったり、完全にコントロールができている人ならば、
「トラウマ」×「自動思考の影響力(=ゼロ)」=「現実への影響力ゼロ」
ということになります。
1章で紹介した「空虚型」や「依存型」などの考え方のクセは、自分ではなかなか気づかないものでした。
多くの人はトラウマそのものが原因であると、誤った認識をしています。
しかし、過去を変えることはできません。
根本的な解決法は、過去を悔やむよりも、現実のあなたを苦しめている「自動思考の影響力」をコントロールすることなのです。
それでは、自動思考により引き起こされる感情を観察することで、自分の自動思考に気づけるようにしていきましょう。
感情なんて勝手に出てくるもので、眺めたりコントロールするものではないと思うかもしれません。
しかし、どんな感情にも、それが湧き出る「ロジック」というものが存在します。
前述したように人は、
「現実での出来事やイベント」→「認知」→「(自動)思考」→「感情」→「行動」
という一連のムーブメントによって、物事をとらえています。
感情が起こるときには何かしらキッカケとなる「現実での出来事やイベント」を認知しているのです。
その感情の炎を燃え上がらせる「着火装置(キッカケ)」を認知することからはじめます。
キッカケを「数字」で見つける
あなたの感情を湧きおこすキッカケは何でしょう。
キッカケさえわかってしまえば、それを減らしたり、回避することもできるようになります。
ここでは、「数字を追う」という観察方法について説明しましょう。
「数字を追う」といっても、ようは簡単な日記を作るような感覚で、感情のキッカケとなったイベントの振り返りをするだけです。
日記は「生活のリズムを見直す」「振り返りの時間を作る」というためのツールであって、ただ漠然と「日記をつけるだけでメンタルが安定する」と考えているだけでは効果は薄いです。
そうではなく、ちゃんと数字を追うという方法によって、振り返りの時間を作ることができ、自分自身をコントロールできるようになっていくのです。
たとえば、日々の生活のスケジュールを作ります。
1日を24時間に分けて、仕事している「時間」や、人に電話をかける「時間」など、どんなことにどれだけの時間をかけているか。
それを調べてみましょう。
お金を使いすぎている人は、家計簿をつけて、「何にいくら使っているのか」を把握する。
体重の増減が激しい人は、体重を記録して「増減が特に激しい時期」を把握する。
お酒をたくさん飲む人は、「飲む本数が明らかに増える時期」を把握する。
そうやって数字を追うことで、自分の感情と切り離すことができ、自分には見えていなかったイライラやストレスのキッカケが見えてくるでしょう。
明らかに数字がおかしくなっているときには、あなたの感情を湧き起こしたキッカケがあるはずです。
そこには、ツラいことや、思い出すのもイヤなトラウマもあると思います。
自分を「観察」するということは、ただ一点を見るだけでなく、前後関係やその周りも見渡すことを意味します。
自分の感情が自動で切り替わってしまうキッカケになるものが見つかれば、このステップは成功です。
「感情的な私」が「ムカムカする」という日々を漠然と送ってやり過ごすのか。
あるいは、「理性的な私」によって「明確なキッカケ」を見つけておくのか。
それによって、今後の生きやすさが決まるので、取り組んでみましょう。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。