「とっさの質問にうまく答えられない」「『で、結局、何が言いたいの?』と言われる」「話し方やプレゼンの本を読んでも上達しない」……。そんな悩みを持つ方は、言語化の3要素である「語彙力」「具体化力」「伝達力」どれかが欠けていると指摘するのは、文章や話し方の専門家であり言語化のプロである山口拓朗氏。本連載では、山口氏による話題の最新刊「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」の中から、知っているだけで「言語化」が見違えるほど上達するコツをご紹介していきます。
「言葉を覚える=使える」ではない
「覚える」ということにおいて、お伝えしておきたい大事なことがあります。
それは「覚える=使える」とは限らないということ。
本書の第1章のサブタイトルは、『「使える言葉」を増やす方法』です。その本当の意味を説明しましょう。
言葉を暗記するだけではダメ
私は文章の専門家なので、文章を書くときはもちろん、文章講座の生徒さんに教えたり、企業研修を行なったりするときにも、たくさんの言葉を必要としています。いつでも、その場面、その人にドンピシャな言葉を使いたいと考えています。
だから、本をたくさん読みますし、今でも多い時は1日に10回以上、言葉の意味を調べます。日々、インプットをするために地道な努力を続けています。
でも、調べて終わりにはしません。「インプットして完了」ではないのです。なぜなら、本当の語彙力というのは、ただ言葉を知っていればいいというものではないからです。
私が思う「本当の語彙力」は、「言語活用能力」です。つまり、インプットした言葉を、TPOに合わせて使いこなせるようになること。そこまでできて初めて、「語彙力が高い」と言えるのです。
「言葉を知っている=使える」ではない
「言葉を知っていれば使えるのでは?」と思うかもしれませんが、本当にそうでしょうか。
たとえば、「矜持」という言葉。これはプライドや誇りなどを意味する言葉です。こんな感じの、ちょっと難しい言葉ってたくさんありますよね。それらを知識として知っている人は多いと思いますが、ふだんから使っているでしょうか?
これは、クローゼットの中の洋服にたとえられます。クローゼットにあるということは、それらは確かにあなたのものなのでしょう。しかし、持ってはいるけど着ていない服がたくさんあるのではないですか?
結局、手前にあるものばかりを使い回して、奥にしまいこんだものは使わない。そういう状態ではないでしょうか。
言葉も、これと同じです。
脳の奥のほうに追いやってしまうと、取り出すことができなくなってしまいます。貴重な容量を使っているのに、自分では取り出せないとしたら……本末転倒です。脳内にはあるわけですから、せめて必要なときに取り出せる状態にしておきたいものです。
そのためにできることは、逆説的に聞こえるかもしれませんが「とにかく使う」ことです。使えば使うほど取り出しやすい位置に移動します。必要に応じてサっと取り出せるようになります。
語彙には2種類ある
実は語彙には2種類あります。
1つは「理解語彙」。もう1つは「使用語彙」です。言葉を知っていても使えない理由はここにあります。
理解語彙というのは、知識として理解している言葉のことです。頭の中にストックされているので、誰かがその言葉を発したときには意味を理解することができます。
対して、使用語彙というのは、自分がふだんから使っている言葉のことです。話したり書いたりするときに使う言葉です。
言葉をたくさん知っていても使いこなせないと意味がない
どちらも、幼少期からどんどん増えていきますが、社会に出たときに真価が問われるのは使用語彙のほうです。なぜなら、使用語彙が豊富な人ほど、さまざまな言葉を使って表現豊かに、明快に、すらすらと言語化できるからです。
それでは、ここで質問です。
次のうち、語彙力が高い人はどちらでしょうか?
A 理解語彙が500、使用語彙が100の人
B 理解語彙が300、使用語彙が150の人
答えはBです。
どんなに言葉をたくさん知っていても、それを自分で使いこなせていなければ、語彙力が高いとは言えません。
もちろん、理解語彙は多いに越したことはありません。言葉の意味を知っていれば、本を読んだり話を聞いたり、インプットする際の苦労を減らすことができます。
しかし、いくら理解語彙が豊富でも使用語彙が乏しければ、アウトプットで苦労を強いられます。脳の奥にしまいこんだ言葉を取り出せず、使うのは、手前にある安易な言葉ばかり。周りから「語彙力がない人」だと思われている恐れすらあります。
理解語彙を使用語彙にするためには、失敗を恐れずにどんどん使っていく。これ以外に方法はありません。アウトプットして使用語彙を豊かにしていくのです。実践で「使える言葉」の数を増やしていくことが、真の語彙力アップと心得ておきましょう。
*本記事は、山口拓朗著「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」から、抜粋・編集してまとめたものです。