スマホ依存で、「判断力」「記憶力」「創造力」「洞察力」「共感力」が低下しているとも言われています。今回のテーマは、「肉体疲労が消えるデジタルデトックス術」。おススメの方法をご紹介します。
本連載の「超ミニマル・ライフ」とは、「どうでもいいことに注ぐ労力・お金・時間を最小化して、あなたの可能性を最大化する」ための合理的な人生戦略のこと。四角大輔さんの新刊『超ミニマル・ライフ』では、「Live Small, Dream Big──贅沢やムダを省いて超効率化して得る、時間・エネルギー・資金を人生の夢に投資する」ための全技法が書かれてあります。本書より、おすすめの方法、考え方ご紹介します。
監修:湯本優/株式会社cart CEO、医師、医学博士
「判断力」「記憶力」「創造力」「洞察力」「共感力」を向上させる方法
ここで注目すべき研究をご紹介したい。
脳全体がバランスよく稼働する「デフォルトネットワーク」(脳全体が調和的に活性化する状態)では、「判断力」「記憶力」を担う領域が特に活性化していたというのだ(※1)。さらに何と「創造力」「洞察力」「共感力」までもが向上するという(※2)。
これらは、人が生きる上で最も重要な5大能力だと言っても言いすぎではないだろう。
クリエイティブになれる時間
例えば、会議室やデスクでは問題解決の答えは出ず、いいアイデアは浮かばなかったのに──トイレやお風呂、身動きできない満員電車や運転中に突然ひらめく。
この誰もが経験している不思議な現象は、脳科学が解明した「デフォルトネットワーク」によって説明できるのだ。
つまり「創造性」を高めたければ、「頭が空っぽになる非生産的な時間」を持つべきだということ。さらに、仕事で求められる「判断力・洞察力」、生活に必須の「記憶力」、人間関係で重要な「共感力」も同様ということになる。
つまり、スマホ依存症、ゲームや動画サイト中毒の方は、これら5大能力を低下させてしまうことになるのである。
脳の可能性を最大化する方法
「人間は脳の2割しか使えていない」
一度は聞いたことがあるだろう。今の脳科学では否定されているが、多くの人がこの言説を信じていた。
何を隠そう、筆者も長年そう思い込んでいた一人。
厳しい生存競争を勝ち抜くために進化してきた人体が「脳の2割しか使わない」なんて非合理なことはしない。当然、脳も体も余すことなく全て使い切っている。
その事実を知ってから、こう思うようになった。
「せっかく授かった、地球上で(身体比)最大クラスの脳の可能性を100%引き出したい」
それを実現するための第一歩が、脳全体がバランスよく稼働する「デフォルトネットワーク」の時間を、人生でできる限り多く持つことなのではないだろうか。
そして、ここでも「メリハリ」が鍵だと考えている。
脳の一部を集中的に稼働させる「実行ネットワーク」と──脳全体が調和的に活性化する「デフォルトネットワーク」を──交互に繰り返すことで、脳のパフォーマンスを最大化できる。
これは個人的な考察だが、直感的な確信がある。
脳の使い方もメリハリ
週末と平日のメリハリだけでなく、忙しい日におけるONとOFFのメリハリも重要となる。休日を丸1日オフラインにするのが不安なら、まずは細切れでいいので1日に何度か意識的にネットを断ってみよう。トイレ、入浴、駅までの道のりなど探せばいくつもある。
この連載でも紹介してきた「スロートレーニングと“動的メディテーション”」を完全オフライン状態で過ごせば、理想的なデジタルデトックスとなる。
前著『超ミニマル主義』をお読みの方は、理想的な「デフォルトネットワーク」の時間を、1日に何度も確保できることをすでに知っている。
前著の〈スケジュールの軽量化〉で提案した、朝と夕方それぞれの「身を整えるルーティン」と「セルフケアタイム」、そして夜の「キャンドルタイム」だ。
「夜を軽くする」に書いた「帰宅してから翌朝まで」の時間全てをオフラインにできれば、翌日は休暇明けのようなパフォーマンスを得ることができる。
さらに、仕事中にもその時間はある。「最強の集中力ハックス」で紹介したポモドーロテクニックの「5分休憩」やハーバード式の「15分休憩」がそれにあたる。
最も簡単な歩行瞑想のすすめ
温かいお茶で一息ついたり、窓から景色を眺めたり。
目を閉じて心地いい音楽を聴いたり。
深呼吸して体を伸ばしたり。
同僚と何気ない会話をして笑ったり(ちなみに、会議の前後に雑談をすることで、会議が効率化したり組織の結束が高まることがわかっている)。
以上全て効果的だが、最も推奨したいデジタルデトックス術は、スマホを持たず手ぶらでただ散歩すること。
体がなんとなく重かったり、心がザワザワする時、5分でもいいのでスマホも何も持たず手ぶらで散歩してみよう。それだけで驚くほどスッキリする。
ちなみに「歩行瞑想」は最も古い瞑想の一つとされ、体とメンタル両方の健康に効く。だからぜひ習慣化してほしい。
一番の効能は肉体疲労軽減
「一歩を踏み出すなり、私の中には海のような思索があふれ出す──As soon as I had stepped from the platform, an ocean of thought began to heave and surge up within me」
19世紀最高の思想家で、名著『ウォールデン 森の生活』の著者ヘンリー・デイビッド・ソローもこんな格言を残しているくらいだ。
仕事中に可能な限り数多くのオフライン時間をつくりだすべく努めてほしい。それから得られるギフトは、気分転換やリラックスだけじゃないことはもう説明不要だろう。
そして忘れないでほしい。それらの効能以上に重要なのは、肉体疲労が軽減することである。
細切れでもいいので──1日の中に何度もオフライン時間を確保できれば、「倒れるように帰宅する」なんてことはなくなると約束しよう。
そして、「平日に溜まった疲れは週末に解消」ではなく、「その日の疲れはその日のうちに」が可能となる。
すると──平日や週末に関係なく──常に体は軽く、クリアな頭を維持できる。すると自然に、暮らしの質も、仕事の生産性も高まっていく。
その爽快感と充実感が、人生の幸福度を押し上げるのだ。
余談だが、1日の中で「オフライン時間」が強制的に設定された職場がそろそろ登場すると思っている。いやすでに世界のどこかで実践し、組織全体のパフォーマンスUPを実現している経営者がいるかもしれない。
(本記事は、『超ミニマル・ライフ』より、一部を抜粋・編集したものです)
【参考文献】
※1 Raichle, MacLeod, Snyder, Powers, Gusnard, & Shulman「A default mode of brain function」(2001)
※2 フローレンス・ウィリアムズ『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる 最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方』NHK出版(2017)