ヴィッセル神戸が悲願のJ1リーグ初優勝を果たした。その立役者といえるのが、オーナーである楽天グループの三木谷浩史会長兼社長だ。三木谷氏は神戸をクラブ消滅の危機から救い、2018年には元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタを獲得。日本サッカー界を驚かせてきた。だが結果的に、今シーズンの躍進を支えた「勝つための戦術」は、三木谷氏が掲げてきた「バルセロナ化」とは対極に位置していた。三木谷氏によるチーム運営の“功罪”に迫る。(ノンフィクションライター 藤江直人)
不振だった昨夏は
オーナー退任も示唆
いまになって読み返すと、16文字のツイート(ポスト)に込められた万感の思いがあらためて伝わってくる。
本拠地ノエビアスタジアム神戸で名古屋グランパスを2-1で振り切ったヴィッセル神戸が、最終節を残して悲願のJ1リーグ初優勝を決めてから一夜明けた11月26日。神戸の会長を務める三木谷浩史氏が、自身のX(旧ツイッター)をおもむろに更新。こんな思いをつづった。
「続けてきて良かった。ありがとう。」
その行間から読み取れる通り、三木谷氏はかつて神戸会長を辞任すると示唆したことがある。神戸が最下位にあえいでいた昨年5月下旬。自身が創業し、会長兼社長を務める楽天グループ(以下楽天)の無料通話・メッセージアプリ「Viber(バイバー)」を更新。開幕から低迷が続く現状に対して「大きな責任を感じている」と投稿し、さらにこう続けた。
「個人会社のときも含めて、19年間一生懸命やってきたつもりですけど、いつでも身を引き辞めますよ。けじめつけないとね。僕がいないほうがクラブも自立、奮起するでしょう」
当時の神戸は、代行を含めてシーズンで3人目の監督が指揮を執っていた。現場への介入疑惑とも相まって、激しい批判にさらされていた三木谷氏は投げやりな思いに駆られてしまったのだろう。
しかし、辞意はすぐに撤回される。東京から急きょ神戸入りした三木谷氏は、コーチングスタッフや選手を集めて緊急ミーティングを開催。号泣しながら一致団結を訴えた。
「もう一回、一生懸命やろうと思いました。格好悪くてもいいと思い、戻って来ることにしました」
こうした葛藤から1年半の時を経て、悲願の優勝を成し遂げた三木谷氏。その万感の思いが、前述した「続けてきて――」のツイートに反映されている。
十代はテニスに夢中で、一橋大学時代は体育会テニス部主将も務めた三木谷氏が、サッカーおよびヴィッセル神戸と接点を持ったのは2003年の年末である。この頃の神戸は、実は資金繰りに窮していた。