三木谷氏の積み重ねは結実したが
課題も残されている

 ここでも「忖度」せずにスター選手を起用しなかったのは、三木谷氏の剛毅果断ぶりに翻弄(ほんろう)され、かつて2度も解任された指揮官が、悔しさを糧に覚悟を決めたからに他ならない。

 とはいえ、これをもって三木谷氏が神戸に費やした20年間を、功罪のうち「罪」が多いと位置付けるわけにはいかない。例えば今シーズンをけん引した元代表の大迫とFW武藤嘉紀、MF山口蛍、DF酒井高徳は「イニエスタと一緒にプレーしたい」という思いを抱いて神戸の一員になった。

 私財をなげうった時期には、懸案だった練習場がハイブリッド芝2面、人工芝1面の形で完成し、三木谷ハウスと命名された豪華選手寮も誕生した。寮では体制が強化されたアカデミーのホープたちも暮らし、今シーズンで言えばDF山川哲史やMF佐々木大樹らアカデミー出身者が大活躍した。

 そもそも、神戸市への恩返しの思いを込めて三木谷氏が経営を引き継がなければ、神戸というクラブが存続していたかどうかも定かではない。サッカークラブのオーナーとしての手腕は賛否両論あるものの、三木谷氏による20年間の積み重ねが、今シーズンに最高の形で結実したのは確かだ。

 表彰式後に真っ先に胴上げされた三木谷氏は、万感の思いを込めて「歴史が変わりました」と喜びをかみ締めた。まさしく「継続は力なり」である。ただ先述したフアン・マタの例のように、経営側と現場側に今なお方針の相違が残されているのは否めない。今後は両者が足並みをそろえ、今季の好調をさらに継続できるのか――。24年シーズンは三木谷氏の腕の見せ所である。