入居者の遺品も
トラブルのもと

 さらに面倒なのが、入居者の遺品の片付けだ。いわゆる「残置物の処理」である。入居者に身寄りがない場合、遺品は家主が片付けることになるが、実は相当な費用がかかってしまうのだ。

 また、残置物と賃貸借契約は相続の対象になるため、勝手に処分すると、トラブルになる可能性もある。これも家主が高齢者の入居に難色を示す一因になっている。

 2021年、この問題を解決するため、国土交通省と法務省がある条項を公開した。それは、入居者が亡くなった場合、残置物の処分と賃貸借契約の解除をスムーズに行えるようにするための「モデル契約条項」である。

 さらに、今年7月には厚生労働省、国土交通省、法務省が合同で高齢者の住宅確保要配慮者への支援を拡充するための検討会をようやく立ち上げた。遅気に失したといえるが、高齢者の住宅確保に政府も動き出している。

 この施策に対し、さまざまな高齢者の住宅探しを経験してきたR65不動産の山本さんは、こうコメントする。

「『残置物の処理等に関するモデル契約条項』は、残念ながら普及が進んでいません。その原因の一つに、残置物の処理を実行する『受任者』に、不動産会社を指定しにくい点があるのです」

 不動産会社は、賃貸物件の契約により、収益を上げている。しかし残置物の処理を行うには、手間と費用がかかり、多大な損失を生んでしまうからだ。ちなみに受任者とは、入居者の死後事務委任を受任する人全般を指し、残置物の処理、残置物の換価や指定先への送付、賃貸借契約の解除を担う人を指す。