「駅に着いたら外は雨。傘は持っていないが、お店の外の傘立てにはビニール傘がずらっと並んでいる。『誰も使っていないのに、なぜこの傘を使えないんだ。新しい傘を買うのはもったいない』とは誰もが一度は思ったはず」(丸川氏)
丸川氏は18歳のころ、認定NPO法人フローレンスの代表・駒崎弘樹氏の著書『「社会を変える」を仕事にするーー社会起業家という生き方』(英治出版)を読み、社会問題を解決するソーシャルビジネスに興味を持つ。同氏は2017年頃にメルカリやDMMがシェアリングエコノミーに参入するという報道を見て、まだ日本では展開されておらず社会的な意義の大きい傘のシェアリングを実現するため、2018年6月にNature Innovation Groupを設立した。
社名がアイカサでないのは、他のサービスを展開する可能性があると考えていたから。そして丸川氏自身が営業に回っていたため、「アイカサというサービス名だと優しすぎると思い、よりしっかりとした印象のNature Innovation Groupという社名にした(笑)」(丸川氏)。
アップデートで利便性を高める
アイカサは2018年12月に東京・渋谷を中心にサービス提供を開始した。当時はメッセンジャーアプリのLINEから友達追加し、傘立ての「アイカサスポット」に設置されている傘のQRコードを読み取ることで、ロックを解除するためのパスワードが表示される仕組みになっていた。
そこからエリアを拡大しつつ1年半ほどサービスを提供してきたアイカサ。だが、ユーザーの利便性を高めるため、そしてより環境に優しいサービスにするため、Nature Innovation Groupは5月11日にサービスをアップデートすることを発表した。
「多くのスポットは駅にあるため、急がれているお客様が多かった。そのため、独自にアプリを提供しスマートフォンをかざすだけで借りられるスキームにする。我々は傘の製造者でもあるので、可能なかぎり傘を長持ちさせ、環境に対してもより良い取り組みをしたかった」(丸川氏)
6月上旬からはiPhone・Android共に対応した専用のアプリを提供し、よりスムーズに傘を借りられる仕組みにした。傘立てのロックの解除は、アプリをダウンロードしたスマートフォンをかざしてBluetoothでペアリング、もしくはQRコードの読み取りで可能となる。
アプリの提供により、支払い方法の選択肢も増える。これまではクレジットカードかLINE PAYのみだったが、他の選択肢も利用できるようにする。雨が降りそうな際に教えてくれる通知機能の実装や、多言語対応も予定している。Nature Innovation Groupは2018年12月、ALiNKインターネットから資金を調達している。ALiNKインターネットは、一般財団法人日本気象協会と共同で、天気予報専門メディア「tenki.jp」を運営する企業だ。今後はそのデータを活用して、雨の通知を行うことも視野に入れている。