食品・飲料のEC化率が7%のイギリスは、大手小売事業者が積極的にオンラインのSCMに投資をしてきた歴史がある。テスコやセインズベリーズのようなビッグプレイヤーに加え、昨年イオンと提携を結んだオカドのようにオンライン特化で大きく事業を伸ばす企業も生まれた。
韓国やアメリカでは「ギグワーカー」が配送面で重要な役割を担い、事業拡大に貢献している事例も目立つ。代表例はアメリカのユニコーン企業・インスタカートだ。同社は4月上旬だけで前年比500%増となる7億ドルの売上を叩き出し、単月で約1000万ドルの純利益を記録した。これはラストワンマイル配送をギグワーカーが担うことで、強烈な需要の拡大に耐えられうる配送網を構築できていたのが大きい。
冒頭で触れたように日本でもコロナ禍において、小売事業者が商流をオンラインに移行させたいというニーズが急増したが、このような取り組みを各スーパーが自力で実施するのには限界がある。そこに必要な基盤を備えたStailerのようなサービスが出てきたので、小売事業者からも注目を集めたわけだ。
実は革新的だったタベリーの「オンライン注文機能」
今でこそ10XはtoB向けのStailerに注力しているが、もともとはtoC向けのアプリからスタートしている。2017年に会社を創業し、同年12月に献立・買い物アプリ「タベリー」をローンチ。それからしばらくは“タベリーの会社”だった。
同サービスは矢本氏自身が育休中に家事をする中で感じた「1週間分の献立を考えたり、それに必要な材料を計算して買い物リストを作ったりする際の大変さ」を解消する目的で開発したもの。10秒で自分にピッタリの献立ができ、そこからワンタップで献立に必要な買い物リストが生成されるのが特徴だ。
「生鮮食品の領域は全くEC化が進んでおらず、マーケットの規模も(テクノロジーを活用することで)変革できる余地も大きいのに、目立ったプレイヤーがいませんでした。この領域でキラープロダクトを作ることができれば、献立の作成や買い物の体験も圧倒的に良くなり、売上もどんどん拡大するに違いない。そう考えていました」(矢本氏)
まずは自身が明確にペインを感じていた「献立の作成から買い物リストの生成」までの工程にフォーカスする形でタベリーを開発。事業者からネットスーパーに繋ぐためのAPIを提供してもらえれば、ゆくゆくは食材の購入までタベリー上でスムーズに完結する構想だった。
ただ、矢本氏の思い描いた通りには進まなかった。そもそもそんなAPIなど存在しなかったからだ。