私たちはふだん、人体や病気のメカニズムについて、あまり深く知らずに生活しています。医学についての知識は、学校の理科の授業を除けば、学ぶ機会がほとんどありません。しかし、自分や家族が病気にかかったり、怪我をしたりしたときには、医学や医療情報のリテラシーが問われます。また、様々な疾患の予防にも、医学に関する正確な知識に基づく行動が不可欠です。
そこで今回は、21万部を突破したベストセラーシリーズの最新刊『すばらしい医学』の著者で、医師・医学博士の山本健人先生にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の模様をダイジェスト記事でお届けします。(構成/根本隼)
Q. たばこを吸うと寿命は何年縮まる?
①3年
②5年
③10年
④15年
A. ③10年
たばこを吸い続けるだけで、寿命が10年も縮まるというのは驚きですよね。
実はつい最近まで、「たばこ=体にいい」と宣伝されていたこともありました。しかし、様々なデータを集めた結果、現在では「健康を害するリスクが非常に高い」ということが判明しています。
例えば、以下の5つのような事実が分かっています。
・約70種類の発がん性物質が含まれる
・16種類のがんを引き起こす
・肺がんに15〜30倍かかりやすい
・寿命が10年短くなる
・1本たばこを吸うごとに寿命が11分短くなる
これらに加えて、喫煙者は非喫煙者よりも手術の傷が膿みやすかったり、手術後に肺炎を起こしやすかったりするので、入院が長期化しがちなうえ、最悪の場合は命にかかわる事態になりかねません。
なので、私たち外科医は、手術前の患者さんに「禁煙してください」とお伝えしています。直近1か月以内にたばこを吸っていたら、強制的に退院してもらい、手術を延期する施設もあります。たばこはそれほど危険なのです。
「ニコチン不足」がイライラを生む
これほどリスクがあるのに、なぜ喫煙者はたばこを吸い続けるのでしょうか。私は以前、「たばこを吸うメリット」について、喫煙者150人にアンケート調査したことがあります。
その結果、6割超の人が「イライラやストレスの解消、リラックス」と答えました。でも、誤解しないでください。これは、たばこにリラックス効果があるということではありません。
たばこに含まれる「ニコチン」という物質に依存性があるため、喫煙者はニコチンがないとイライラする「依存症」に陥っています。
つまり、「ニコチン不足」という病的な症状によって、たばこを吸わなければ本来感じないはずのストレスやイライラが生み出されている。だから、たばこを吸うことでニコチン不足が解消されて、あたかもリラックスしたかのように感じるのです。
禁煙には「医学的アプローチ」が必要
たばこをやめられない原因も、この「依存性」にあります。「意思の弱さ」だけが原因ではありません。なので、意思を鍛えて強くするのではなく、適切な医学的アプローチが必要です。
いまでは、「禁煙外来」という窓口を設けた医療機関が増えています。対象となるのは、以下の条件に当てはまる人です。
・ニコチン依存症の判定テストで5点以上
・35歳以上なら、1日の喫煙本数×喫煙年数≧200(35歳未満は要件なし)
・ただちに禁煙をしたいと思っている
・禁煙治療に同意している
どうしてもたばこをやめられない、もしくは家族にたばこをやめてほしいという場合、ぜひ禁煙外来を検討してみてください。
(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『すばらしい医学』刊行記念セミナーで寄せられた質問への、著者・山本健人氏の回答です)