だが、「地方だからドタキャンか?」といった憶測を生んでしまうほど、前回の「曲少なめ水戸ライブ」の印象が悪かったのであろう。実は水戸ライブのときも「地方だから手を抜いた?」と囁かれていて、確かにそう言われても仕方のない内容だったのだが、それによって生まれた不信感が今まだ続いているのだろうな、という印象である。
もし本当に、会場の立地条件や前売りチケットの売れ行きなどで歌唱拒否が引き起こされているのだとしたら、今後さらにそうした行動が繰り返されて、その姿勢が自然と白日のもとに晒されていくであろうから、ある意味、むやみに案ずることはないといえる。
なお、今回当日キャンセルされた公演は、同じ会場で来年3月30日に振り替えで開催されることが決定しているから、「丹波篠山市だからキャンセルした?」という邪推の選択肢も消してよろしかろう。
「急性咽頭炎」の発表が
疑問視されるわけ
公演中止の理由として示されていた「急性咽頭炎」を、「どのくらい言葉通りに受け止めるか」という問題もある。素直に「本当に急性咽頭炎なのだ」と受け止めるか、「歌いたくないから仮病を使ったのでは」と受け止めるか、である。後者の可能性が疑われてしまっているのも水戸ライブによる影響が大きい。
声は、喉や体調に調子を大きく左右される非常に繊細な楽器である。そしてどれだけ調子を崩さないようにケアをしても、当日まで状態がわからないのが喉である。各種試みが奏功することもあるし、運悪く風邪を引いてほとんど歌えないほど喉の調子が悪くなることもある。
これは、ボーカリストの喉にステージの命運がかかっていると言っても過言ではない。どれだけ楽器やボーカリスト以外のメンバーがフィーチャーされる楽曲であろうと、歌が入っている以上、その曲の主役は歌となる。その歌を聞きに、何百、何千、何万というファンが、決して安くない代金を支払い、数カ月前から予定をやり繰りして、場合によっては遠方から泊りがけで、その日のステージを観覧しにくる。
こうした重圧すさまじい状況を前にして、決して喉の調子を落とすことができないボーカリスト、あるいは主催者側が苦肉の策として用意するのが「口パク」である。コンサート会場で、ボーカルが歌っているフリをして、実は歌が収録された音源、あるいは歌だけの音源を流すのである。これで「ボーカルは本当は歌っていないけど、歌っているように見えるステージ」が完成する。