「自分の内面のことを話すと、泣いてしまうことがありませんか?」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
泣いてしまうときはある?
「自分の過去を誰かに話すときに泣いてしまう」
「仕事で自分のことを話しているだけなのに、なぜか涙が出てしまう」
こんなふうに、「自分の内面」を話すときだけ泣きやすいと感じることはありますか?
そのせいで、自分のことを誰かに打ち明けることが怖くなったり、人前で自分の話をすることに抵抗を感じるようになってしまうかもしれませんね。
しかし、自分が意識していないのに涙が溢れてきたり、止まらなくなることは、心の健康に関する重要なサインである可能性もあります。
今回は、「心と涙の関連性」についてお話ししましょう。
人はなぜ涙を流すのか?
涙は「自律神経」によって制御され、常に目を適切に潤し、感染や乾燥から保護します。
この自律神経は、血圧や呼吸などの体内プロセスを調節し、自動的に機能するため、私たちは意識的に涙を流したり止めたりすることはできません。
しかし、感情が大きく揺れるとき、私たちの涙は勝手に溢れてしまいます。
これは精神状態が異常なほどに急激に変化したときに過剰に分泌されたホルモンを「涙」として体外に排出し、気持ちを整えるためだと考えられています。
悲しみだけでなく、「嬉し泣き」「笑い泣き」「怒り泣き」など、悲しみ以外の感情でも、心に大きな変化があるときには、過剰なホルモンを排出するため涙が多量に生成されます。
つまり、強いストレスを感じたときに「涙を流すことによって」私たちは感情の変化から解放され、リラックスできる仕組みになっているのです。
涙が止まらないのはなぜか?
理論上は、泣くことでストレスを解消し、リラックスできれば涙は止まるはずです。
しかし、過度な緊張状態にある人や、感受性が人一倍強い人では感情を制御してくれるはずの自律神経に異常が生じて、様々な刺激に過敏になってしまいます。
私たちは普段、社会生活の中で無意識に緊張感を持っています。
ですが、そんな緊張感が過剰になり、いつも張り詰めて緊張感が取れなくなると、つい自分の内面を話す際に緊張が緩んだり、逆に緊張しすぎてパニックになってしまって、涙が止まらなくなってしまうのです。
自分の内面を話す場面ではついつい誰かに気を許したり、気持ちを預けたくなってしまうものです。
そんな過度な緊張感から、気持ちが一気に緩んだことで涙が溢れるようになってしまうのです。
涙を「止める」ためにはどうすればいいのか?
自分の内面を話したときに涙が溢れてしまうのは急激な感情の変化や気の緩みによるものとお伝えしました。
では、どうすればそんな涙を止めることができるのでしょうか?
その具体的な対処法として「短期的な対処法」と「長期的な対処法」の2つがあります。
「短期的な対処法」としては緊急回避が当てはまります。
人間社会では「泣く」ということは緊急事態だと認識されてしまいます。
そのためいやでも注目されてしまいますし、早く話そうと思えば思うほど、頭がパニックになってどんどん感情が溢れてしまいます。
そんな場面での短期的な解決方法として、「泣きそうな場面は避ける」「泣きそうになったらその場から一旦離れる」といった対処法を取ってみましょう。
気持ちを高ぶらせる原因から物理的に離れることで、緊張感や警戒心は減っていき、落ち着きを取り戻しやすくなります。
そんな「短期的な対処法」を実践してみることで意図せずに人前で泣いてしまうことを減らせます。そして一旦隠れて泣いてしまうことで、気持ちがリラックスできて逆に話しやすくなるでしょう。
そして「長期的な対処法」としては、日常のリラックスが重要になります。
自分のことや自分の内面を話せない人は、過度な緊張感や警戒心が解けなくなっています。
そんな緊張感や警戒心を減らして泣きにくくするためにはリラックスして気を緩める時間を日常のなかでもう少し増やしてあげる必要があるのです。
あなたの緊張感がどこから来ているのかはわかりません。
日々の仕事が忙しすぎるのか、学校で人間関係に悩んでいるのか、あるいは過去のトラウマのせいで警戒心が取れなくなっているのか、人それぞれあるのでしょうが、いずれにしても「過度な緊張」を取ることが最も重要と言うことは共通していることでしょう。
そのためにはいろんな方法を試してみることです。
日常のなかで運動したり趣味を行う時間を増やしてみるのも一つでしょうし、仕事が忙しすぎたり生活のギリギリ感が強いのであれば一度振り返り、メタ的な視点で自分を振り返る時間も必要になるでしょう。さらには大きく環境を変えてみたり、トラウマを変えられるよう自分以外の他人の価値観に触れてみることもひとつです。
いずれも方法は一つではありません、「長期的な対処法」として緊張感をほぐし、涙の感度をあげないようにリラックスする時間をもう少しだけ生活に作ってみてください。
私たちの生活はいつも緊張して張り詰めています。
そんな緊張感が続いていると、自分の内面を話すような強制的に気持ちの緩むイベントが挟まると、ついつい涙が溢れてしまいます。
そんな緊張感をほぐして泣かないようにするためには、もうすこし生活の「ゆとり」について考えてみてください。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が、特別に書き下ろしたものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。