災害救助犬のハンドラー、加藤雅美さんに話を聞いた。加藤さんのパートナーのコアは、民間ボランティアの災害救助犬だ。

 2021年7月に静岡県熱海市伊豆山で発生した土石流災害では現場で捜索活動を行い、その様子はネットニュースでも取り上げられた。1月に起きた能登半島地震にも出動し、現場で捜索に当たった。

能登半島地震にも出動した「災害救助犬」は、日頃どんな訓練をしているのか?能登半島地震の現場で。移動中には、ひび割れた地面を縫って歩くことも   写真提供:加藤雅美

 

 日常でのコアは、加藤さんの家で家庭犬として過ごしている。コアのSNSでは、加藤さんのベッドを独り占めしてリラックスして寝ている様子や、一緒に出かけたりオヤツをもらったりして思い切り甘えて暮らしている姿を見ることができる。その姿は、他の犬たちの生活と何も変わらない。

能登半島地震にも出動した「災害救助犬」は、日頃どんな訓練をしているのか?自宅でくつろぐコア。加藤さんのベッドを占領   写真提供:加藤雅美

 コアが災害救助犬になったのは、友人の救助犬の訓練を手伝いに行ったことがきっかけだった。捜索訓練に参加してみたら、水を得た魚のように生き生きとした姿を見せたのだ。その姿に感動した加藤さんは、正式に訓練に参加することにした。

ありあまるほどのパワーが、
災害現場では輝き、犬の可能性を広げる

「コアは家庭犬としては元気のありすぎるタイプです。そのエネルギッシュさが、場合によっては問題行動と捉えられてしまう可能性もあります。でも、災害救助犬としては、その高いエネルギーが意欲的な救助活動につながるのです」

 コアのHPには、いくつもの訓練動画がアップされている。犬の持つ素晴らしい能力に驚くと同時に、コアの充実感あふれる表情が印象に残る。家庭犬として暮らすために抑えているであろうパワーを思う存分発揮し輝ける訓練の時間は、コアにとっても充実したかけがえのない時間なのだろう。

 救助犬の訓練というと、厳しく自由のない環境をイメージする人もいるかもしれない。しかし実際には、犬たちは大好きなハンドラーと共に楽しみながら訓練の時間を過ごしているようだ。

 加藤さんは、がれき捜索などの訓練の他、特別な環境や道具がなくても個人でできる訓練を、日常生活で積み重ねているという。

「散歩の時など、私とコアだけでできる訓練をコツコツ続けています。例えば、散歩中にツケ・マテ・コイなどの基礎練習をしたり、疑似遺体臭を使った捜索訓練も週に3〜4日は行っています」

 訓練の他、防災イベントなどでデモンストレーションを行って、啓蒙活動をすることも多い。災害救助犬の能力を目の前で見た人は感動し、防災意識を高めてくれるという。

 災害とは関連のない行方不明者の捜索をすることもある。日数が経過しており生存の可能性がなくても、遺族が心の区切りをつけて前を向いて進むきっかけになることもある。