肉球で情報を得ながら捜索
靴を履かせて足をくじく場合も

 災害救助犬が現場に出ると「こんな足場の悪い場所でけがをするのでは。犬に靴を履かせてあげてほしい」と言われることも多い。

「犬は肉球で多くの情報を得ています。災害現場は足場の状況が悪いことも多く、現時点では犬の靴は人間用ほどフィットしていません。そのため、捜索中に犬の靴がズレたり脱げたりすることによって足をくじいてしまう、バランスを崩してしまうなど、靴が原因でけがをするリスクがあります」

 災害現場では足元の状態が悪い場所での捜索も多い。だからこそ、日頃から山林やがれき、雪山、水難救助など、さまざまな状況を想定して訓練を行っている。その上で、靴を履かせるか否かは現場でハンドラーが判断する。
 
「捜索活動において、救助犬の安全確保は最優先だと考えています。なにより、救助犬はハンドラーの最愛の家族であり、お互いに信頼するバディーです」

 いつどこで発生するかわからない災害に備え、日々訓練を続ける災害救助犬たち。今回の取材で加藤さんの話を聞いて、訓練はもちろん、啓蒙活動や現場での救助活動も完全なボランティアだということに驚いた。

 膨大な時間もかかり、経済的な負担も大きいと思うのだが、なぜ続けているのだろうか。

「バディである犬を信頼し犬の能力を引き出して、力を合わせて作業できるのが救助犬の魅力だと思います。私もコアも、なにより自分たちが楽しんで訓練をしています。その結果誰かの役に立つのなら、うれしいです」

 2021年の熱海の土石流災害の現場では、捜索はもちろん、現場の人たちの心を和らげる犬の力も感じたという。自衛隊や消防隊の人が、コアと触れ合うことで緊張がほぐれてリラックスした表情を見せてくれたのだ。

「現場での経験が、自分の原動力になっている部分もあると思います。災害は起きない方がいい。でもいざ、その時が来たらしっかり力になれるように、楽しみながら訓練を続けていきたいと考えています」

能登半島地震にも出動した「災害救助犬」は、日頃どんな訓練をしているのか?能登半島地震では、1月3日から3日間出動した   写真提供:加藤雅美