若い力で接戦を制した
民進党の頼清徳氏
1月13日夜、頼清徳氏は、台北市内にある事務所近くで開かれた民進党の集会に姿を見せ、高らかに勝利を宣言した上で、「台湾海峡の平和と安定を守るのが使命だ」と強調して、中国との対話にも言及した。
今回、国民党の侯友宜氏、台湾民衆党の柯文哲氏との間で争われた選挙で、頼氏が獲得した票は約558万票。有権者全体の4割にすぎない。
4年前の2020年、蔡総統が、やはり三つどもえとなった選挙で817万票(全体の57%)を集めて圧勝したのと比べれば、国際情勢が異なるとはいえはるかに少ない。
加えて、今回は、総統選挙と同時に行われる立法院選挙(国会議員選挙、定数113)で、民進党は改選前の62議席から51議席に減らし、52議席を得た国民党に第1党の座を明け渡すことになった。総統=民進党、議会=国民党という「ねじれ」は、今年5月に正式に発足する頼政権にとって手放しで喜べない結果といえる。
ただ、筆者は、台北市内や隣の新北市内で3つの陣営の集会を見たり、選対関係者に話を聞いたりする中で、「台湾と中国は別」と考える若い世代が増えたことを実感した。
「賃上げは実現してほしい。でも、これまでのように国防力は維持して、台湾のアイデンティティーを守ってほしい」
「中国は台湾を敵視している。そんな中国を好きになれますか?」
このような声が聞かれたのは、頼氏と柯氏の集会である。頼氏、そして組織が脆弱(ぜいじゃく)ながら369万票を獲得し善戦した柯氏の集会は、バンドなどによるライブも採り入れたフェスティバル感覚の構成で、20代や30代の若い世代が目についた。
もちろん、侯氏の集会も、巨大なスクリーンを用意し、演奏などもあって飽きさせない工夫は施しているのだが、参加者の多くは、60代から70代の高齢者と組織が動員した団体の構成員で、侯氏の演説に対するノリも良くない印象を受けた。
台湾では、日本から見ているほど、現在の蔡英文総統の人気は高くない。民進党政権8年での腐敗、中国との関係悪化による経済の低迷や伸びない賃金への不満も渦巻いている。
しかし、総統選挙で直接選挙が導入された1996年以降、初めて同じ政党が3期連続で政権を担うという結果をもたらした背景には、「天然独」と呼ばれ、「私は台湾人」と語る若い世代の「熱量」の差があると感じている。