頼清徳氏の勝利で
難しくなった対中関係

「民主的価値を守るか、権威主義に屈服するか」

 頼氏は、大規模な集会を行う度に、このように主張してきた。投開票日を間近に控えた1月11日夜、大集会の会場を台湾総統府前の凱達格蘭大道に定め、「世界に向かって行くか、中国に捕らわれるかの選択だ」と有権者に迫った(冒頭写真)。

 凱達格蘭大道は、2014年の学生デモ「ひまわり学生運動」など民主や自由を求める運動の舞台となってきた場所である。

 そこで、頼氏が「台湾は民主主義のシンボルであり、民主主義の要塞だ」とこぶしを振り上げると、道路や広場を埋めた15万人の支持者は一斉に呼応し、選挙戦最後の大集会は、一気に「反中集会」へと化した。

 そんな頼氏が次期総統に決まったことは、「台湾統一は必然」と強調し続けている中国の習近平総書記にとって最大の障壁となる。

 2027年10月の共産党大会で総書記として4期目を目指す習氏にとって、台湾統一は公約である。そんな中、頼氏が、少なくとも2028年5月まで台湾総統であり続けることは、どんな手段を講じてでも避けたかったはずだ。

 中国は、さっそく、台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室の報道官が、「民進党は民意を代表できない」と反発した上で、「祖国統一の大業を推進する」とのコメントを出した。

 中国は今、国内経済の立て直しが急務で、ただちに台湾統一への動きを加速させる可能性はほぼないが、今後は、2022年8月と2023年4月に見せたような、台湾を包囲する形での大規模な軍事演習や、台湾産品の輸入制限を柱とする経済的威圧によって、台湾の民心を揺さぶろうとするに相違ない。

 岸田首相や日本にとっては、頼氏によって蔡英文路線が踏襲されることは「是」としても、中国との間では難しい外交が続く結果になったといえるだろう。

 国際的にはこの後も大事な選挙が続く。岸田首相としては、4月の韓国総選挙で、日本と友好的な尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領率いる与党「国民の力」が敗れ、11月に行われるアメリカ大統領選挙で、共和党のドナルド・トランプ前大統領が返り咲くといった「選挙リスク」への備えも必要になってくる。