しかし他方で、「総理大臣」が来ることで励まされる被災者もいるかもしれないし、メディアによって被災地のことが大きく報道されることを考えれば、それはメリットといえる。つまり総理視察は、被災者に希望を持たせ、そして次の行動を促す「大事なメッセージを発信する場」であると割り切らねばならないということだ。
大事なメッセージを発信する場と捉えたときに、岸田首相の訪問によって被災者の安心は増したのだろうか。1.5次、2次避難所へと被災者に「引っ越し」をしてもらうための説得材料になったのだろうか。その答えは、残念ながら0点だ。失敗だった。
総理視察に対して
被災者からは冷たい反応
今回、被災地視察について「官邸内部からも慎重論が出ていたにもかかわらず、岸田首相が視察を強行したのは、歴代総理が発災から数日で被災地入りしていたことを念頭に置いた、自身のメンツを最優先する岸田首相の強い意向があった」(官邸関係者)のだという。
確かに、東日本大震災当時の首相だった菅直人氏は発災翌日に福島原子力発電所に乗り込んだが、混乱に拍車をかけただけだった。
孤立集落がいまだにあり、食糧不足や電気不足が解消されず、何より感染症が蔓延する被災地である。道路が寸断されているために自衛隊や警察、消防を大量に派遣できていない現状では、これまでの総理視察と時期だけを競っても仕方がない。総理視察は、もっと後になってもよかったはずだ。
岸田首相が「被災地へ負担をかけてしまうために被災地へまだ入れない」ということをメッセージで出さないのだから、被災地の反応は当然冷たいものだった。新聞各紙が拾った被災者の言葉がそれを物語っている。