ここからはリーズナブルな価格ながら、大満足できるフランスのホテルをタイプ別に紹介したい。1泊数万円も出せば誰だって居心地のいいホテルに泊まれるが、ビジネスホテル並みの価格でも「フランスに来てよかったなあ」というホテルも探せばあるのだ。私がホテルを手配するとき、理想はシングルユースで1日1万円以下。料金は部屋代なので、2人で旅する人たちならコストは半分になる。円安を理由の海外旅行を避けている人がいれば、ぜひ参考にしてほしい。

4.とにかく休みが長いフランス人が重宝する「滞在型レジデンス」

「行かずに死ねないフランスのホテル」10選、取材歴30年で900泊したジャーナリストがたどり着いた答えとは?Photo by Kazuyuki Yamaguchi

 滞在型レジデンスはキッチンやリビングルームがあるアパートタイプの貸し部屋で、アルプスやピレネーなどではリゾートを楽しむ家族客などをターゲットに貸し出している。ホテルとはちょっと異なり、管理人が不在だったり、時間を限って駐在したりする場合が多い。

 複数の部屋があり、2段ベッドはもちろん、リビングのソファベッドなどを利用することで大人数でも宿泊可能。タオルやシーツがついていないところは持ち込む必要がある。キッチンには調理器具があり、冷蔵庫や電子レンジ付きなのでスーパーマーケットで安価なワインや食材を買い込めば部屋飲みができる。

「行かずに死ねないフランスのホテル」10選、取材歴30年で900泊したジャーナリストがたどり着いた答えとは?Photo by Kazuyuki Yamaguchi

 フランス人は優雅なバカンスを利用して週単位で利用するようだが、1日利用も可能。長逗留するので近くにコインランドリーがたいていある。コインランドリーはフランス語で「ラブリー」となんかかわいい。部屋の掃除やゴミ出しは自分たちでやる。

 駅周辺の都心部では、同じような形態で「アパルトマン」や「ステューディオ」と呼ばれるワンルーム型貸し部屋もある。いずれもホテルのようにフロントがあるわけではなく、玄関前に到着したら指定の電話番号にコールするなどちょっとだけ度胸が必要。

5.アットホームすぎず、プライベートも確保できる“ちょうどいい”「民宿」

「行かずに死ねないフランスのホテル」10選、取材歴30年で900泊したジャーナリストがたどり着いた答えとは?Photo by Kazuyuki Yamaguchi
Ancienne Ecole(アンシャンエコール)
・シングルユース1泊50ユーロ(8000円)

 民宿はオーナーとのアットホームな会話が楽しめるのでたまにはいいが、それが毎晩続くと語学教室に通っているように疲れる。プライベートな時間がほしいという人には向いていない。ところが…。

 2023年に訪れたフランス南西部の民宿はちょっと違った。部屋代は一般的なホテルと比べたら安価で、「ディナーが食べたい場合は24時間前までにご連絡ください。3品で15ユーロ」という案内があったので、迷うことなく依頼しておいた。

 この手の民宿はオーナーが気に入った、とっておきの場所にあることが多く、たいてい路頭に迷う。ところが時代の進化で、宿泊予約サイトの地図をたたくと、Googleマップが起動して、そこまで道案内してくれた。便利な時代になったものだ。

「行かずに死ねないフランスのホテル」10選、取材歴30年で900泊したジャーナリストがたどり着いた答えとは?Photo by Kazuyuki Yamaguchi

 たどり着いたのはポツンと一軒宿。2部屋しか客室がなく、この日の宿泊は私だけだった。シャワーを浴びてからダイニングに行くと、それはもうおいしい匂いが充満。テーブルには赤ワインも用意されていた。

 この宿でよかったものは、経営者があまりしゃしゃり出てこず、ディナーをゆったり食べることができたこと。就寝前に世間話や「伝達事項と翌朝の朝食時間など」の話はあったが、お客さんのスタンスを尊重した接し方にとても好感を持った。

 オーナーは英国人夫婦で、英国からフランスに移住してペンションを持ったという。庭には食材になる植物を育てていて、朝食のヨーグルト、パン、ジャムは自家製。民宿とは違う家に住んでいるので、夕方になると夫婦はクルマで下山していってしまった。ポツンと一軒宿にひとりだけの夜。

6.これぞ“地上の楽園”、ピレネーの「山小屋一棟貸し」

「行かずに死ねないフランスのホテル」10選、取材歴30年で900泊したジャーナリストがたどり着いた答えとは?Photo by Kazuyuki Yamaguchi

 ピレネーの奥深くにあるオービスク峠に向かうキャンプ場。案内されたのは、谷の一番奥にある大きなシャレ(山小屋)。そこまでは未舗装路の山道なので、キャスター付きのバッグが全く役に立たず、とりわけ翌朝の上りは途中で2回休んだほどツラかった。

 管理棟の前にはプールがあったが、見ているだけで寒くなるほど周囲はしっとりとして心地よい程度の冷え込みに。ディナーも朝食も別料金でオーダーできたが、かなりの値段となる。シャレにキッチンもあるというので手持ちの食材で部屋飲みに。

「行かずに死ねないフランスのホテル」10選、取材歴30年で900泊したジャーナリストがたどり着いた答えとは?Photo by Kazuyuki Yamaguchi

 二棟構造がひとつになった大きな山小屋だ。ベッドルーム3部屋はすべて2階にあって、合計10人が宿泊できる。トイレは3カ所ほど、シャワーも3連繋がりのものとちょっと立派な別のものが1つ。モニター画面に炎が映し出されるフェイク暖炉もあった。

 ホテル予約サイトで決済した宿泊費は2023年当時の為替レートで6745円。この価格で山小屋一棟シングルユースだ。真冬の装備でテラスに出て、カウベルの音が風に流れて聞こえる中でコーヒーを飲んだり、歯ブラシをしたり。フランスが地上の楽園と感じる瞬間だ。ずっと滞在していたいが、ほとんど寝るだけで、翌朝に名残を惜しんで旅立った。