もちろん「逃げてさえいれば良い」ということではありませんが、「逃げるというカード」もビジネスパーソンとしては持っておいた方がよいということです。そもそも逃げるというのは、動物なら持っていて当たり前の能力です。恐怖や不安から「逃げたくなる」というのは生存本能で、「逃げる行為」は生存戦略そのものと言えます。

 もちろんビジネスにおいては「困難や問題に対処する」のが日常です。しかし対処しきれない状況や心理的環境がある時は、まず逃げて「ある程度の安全が保たれる状況」になってから対処すれば良いのです。良さそうな住処を見つけたばかりのウサギがトラに襲われたとします。ウサギは、襲われている最中に「ここには住めなくなるな、ほかの水場やエサ場をどう工面しよう」とか考えていたら死んでしまいます。まずはとにかくトラから逃れることだけ考えるわけです。

 危機的な環境でもすぐ対処できたり、ストレスを感じさせない人もいます。そういう人のことを頼もしく優秀に感じるでしょう。しかしその人はたまたまその難局に慣れていたり、ストレスを隠しているだけだったのかもしれません。もしくは自分が難局に感じていただけで、その人にはむしろ得意な状況だったのかもしれません。そして、スマートに仕事をこなしている人も、実は別の場面ではうまく逃げているかもしれません。

 恐怖やストレスを感じると、周囲を疑ったりすることもあるでしょう。思い悩んだりすると寝不足になったり、体調を崩したりもします。そのような状況では、仕事もままならないのは当然です。

「逃げる」というのは、実はビジネスの常套手段です。的確に状況分析をして、万一の時は潔く「逃げる」というカードを切ります。投資の「損切り」の感覚にも近いかもしれません。

身を守りながら戦う

 実際、私の周りにいる優秀なビジネスパーソンは、実はとても逃げ上手です。嫌なことやリスクからうまく逃げています。これ以上頑張っても無理だという臨界点を見極めることに長けています。それは「逃げるというカードがビジネスにおける戦術のひとつ」であると知っているからでしょう。