このようにお話していると、困難な状況への反応は「向き合って解決する」か「逃げる」の二択のように感じますがそうではありません。どちらも「対処する」という意味では同じで、対処の仕方が違うだけです。これを知っていると、「どのタイミングで逃げるか」を考えながら「向き合って解決する」ことができるようになります。

 そうすると不思議なもので、少し心のゆとりが生まれて逃げる前に対処できてしまうこともあります。逃げるというカードを「対処する方法のひとつ」という認識で持つと、身を守りながら戦うことができます。

図表:逃げるという選択肢高瀬敦也著『スキル』P.244より転載 拡大画像表示
書影『スキル』『スキル』(クロスメディア・パブリッシング)
高瀬敦也 著

 大事なことなので改めて同じようなことを言います。膨大な仕事量に追われている時や解決困難なトラブルに見舞われている時、体や心に警告音が鳴り響いているときがあります。「これ以上働けば倒れてしまうぞ」と体や心が警告を送っているはずです。そのサインを無視して無理をしてしまうと、たとえ仕事を完遂してもダメージが大きく残ります。心身に支障を伴う前に、迷わず逃げるべきです。猛暑日にずっと外にいたら熱中症で死んでしまいますよね。空調の効いた涼しい部屋に入るのは「暑さから逃げること」ですが、それは「対処」です。

 逃げる時に「なぜ逃げるのか」と複雑な理論構築をする必要はありません。「逃げるのは良くない」という固定観念は想像以上に沁みついています。「ここから逃げないと危険だから逃げる」。それだけです。逃げる先はいくらでもあります。会社を辞める。学校を辞める。生まれ育った土地を捨てる。「人生を左右する大事」と感じるかもしれません。でも、そんなことは絶対にありません。たいしたことありません。逃げることでしか生まれない未来もあるのです。