シリコンバレー、戦略コンサル他、世界の最前線で、超一流は何をしているのか?
答えは「Bullet Points(ブレットポイント)」と呼ばれる“箇条書き”によるコミュニケーション。箇条書きは、英語や会計、そしてロジカルシンキングと同じくらい世界的に求められているスキルなのだ。メール、プレゼン、企画書・報告書、議事録。あらゆるシーンで活用されている。ロングセラー『超・箇条書き』の著者、杉野幹人氏にその詳細を語ってもらう。(初出:2016年9月28日)
体言止めは、
「すぐ」伝わらない。
箇条書きでは、単語の羅列が使われることがある。例えば次のようなものだ。
・醤油
・みりん
・砂糖
・日本酒
これは文中の単語を切り出して、並列の構造でリスト化したものといえる。もともとの文は「豚の角煮で使われる調味料は、醤油、みりん、砂糖、日本酒の4つである」というものである。
A.T. カーニーマネージャー 東京農工大学工学部特任教授
東京工業大学工学部卒。INSEAD MBA修了。早稲田大学商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)
大学卒業後、NTTドコモに就職。シリコンバレーで仕事を共にした500人以上の起業家のプレゼンや提案資料から、箇条書き(Bullet points)で短く魅力的に伝えることのパワーとその技術を学ぶ。世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを修了後に、グローバル経営コンサルティングファームのA.T.カーニーに参画。経営戦略、マーケティング戦略、新規事業、経営会議運営支援等の幅広い経営コンサルティングプロジェクトを手掛けている。箇条書きを用いた経営者向けのプレゼン・資料作成の経験は300回を超える。現在は、箇条書きを基礎としたストーリーライティングの技術を東京農工大学でも教えている。著書には単著として『使える経営学』(東洋経済新報社)、『会社を変える会議の力』(講談社現代新書)、共著として『コンテキスト思考』(東洋経済新報社)がある
そして箇条書きの1つひとつは「醤油である」「みりんである」「砂糖である」「日本酒である」という「状態を表す文」の省略形と考えることができる。
多くの場合、このような単語の羅列であれば、読み手は自然と理解できるし、ベタ書きよりは整理された印象を与えることができるだろう。
しかし、箇条書きにおいて単語の羅列を使うと、問題が起きることもある。それは、動詞で終わる文章を体言止めにするときだ。
例えば、「コストの低下」や「売上の倍増」などという語句がそれにあたる。プレゼンやメールなどで使ったことのある人も多いのではないだろうか。
しかしこのような体言止めは、「相手の情報処理の負荷を減らす」ことによって、より速く、より魅力的に伝える『超・箇条書き』では使わない。曖昧になるからだ。曖昧だから、相手の情報処理に負荷がかかり、一瞬では理解できなくなってしまう。一瞬で速く、魅力的に伝わらない箇条書きに意味はない。
「コストの低下」が持つ
6つの意味とは?
例えば、「コストの低下」とは何を意味するものだろうか。「コストの低下」という言葉には、少なくとも6つの意味がある。
まず、「コストの低下」というのは状態を表している可能性がある。そして、状態だとしても最低でも3つの意味をとりえる。
「コストが下がった」という過去の状態、「コストが下がっている」という現在の状態、「コストが下がる」という未来の状態だ。
次に、「コストの低下」は状態ではなく、人や組織などのある主体の行為を表すものの可能性がある。それもまた最低でも3つの意味をとりえる。
「コストを下げた」という過去の行為、「コストを下げている」という現在の行為、そして、「コストを下げる」という未来の行為だ。
行為を表す場合は、主体を表す主語が抜けたことで“誰”がコストを下げるのかという責任や因果関係が曖昧になってしまっており、状態を表すとき以上に本来伝えるべき情報を失ってしまう。
このように体言止めというのは多義的であり、曖昧なのだ。
もちろん、体言止めを使うことまでは否定しない。ベタ書きであれば、まわりの文脈から情報を補って、なんとか意味を特定できることがある。キャッチコピーなどでは、体言止めだと語呂がよく、印象に残ることもある。
しかし、短く伝える箇条書きでは、そのようなことはできない。まわりに補う情報がないため、箇条書きで体言止めを使うと、相手は一瞬ではそれを理解できず、伝わらなくなる。その具体的な例を見てみよう。