「1000円の壁」に直面
店側の様々な向き合い方

 さて、「1000円の壁」に対して、ラーメン店の取りうる構えは大まかに「値上げするか、しないか、閉店するか」の3択であり、そこに至るまでの思考と方法のアプローチが様々にある。

 値上げをしない値段据え置き派ラーメン店の店主は、たとえば「ラーメンは安くありたい」「お客様に気軽なソウルフードとして提供したい」「お客さんに寄り添い低価格を実現するのが現在の至上であり、それによって評価が上がれば人気店となって、薄利でもより多売が可能で、利益アップも見込める」といった、哲学や経営戦略を持っている。

 しかし、現実問題としてコストはいやがおうにも上がってきているので、コストカットでこの場をしのぎたいのが本音だ。ガスを節約して調理したり、スープ、麺、トッピングなどの量を減らしたり、安い代替品にしたりする店もある。そして、店主自身が低賃金長時間労働を果たすことでコストカットを達成しようする店もある。

 値段据え置きでいくために、なんとかして経営努力でこの事態に立ち向かおうという構えだが、「経営努力だけではやがて立ち行かなくなり、値上げせざるを得ないだろう」という展望、覚悟も「値段据え置き派」の多くは有しているようである。

 小さい店・企業ほど「1杯のコスト高」の煽りを受ける。それゆえ、長年続いた人気の個人店であっても、仮に1000円超えの値上げをしたときの客離れを懸念して、閉店の決断をすることがある。また、客離れへの懸念だけでなく、そこに「1000円を超えたラーメンは提供したくない」というこだわりも加わって、店主が閉店を選択するケースもある。

 一方、値上げに踏み切ったケースでは、コスト高の中、他店にならって自然に値上げした店もあれば、値上げに伴って1杯にかかるコストを上げ、クオリティの向上を試みる店もある。

 ただし、何しろ「1000円の壁」という具体的な、業界で意識されている概念があるので、1000円を越える価格設定をする際には、その一線を超えていくことに皆一様に自覚的である。その一線を越えるために、先に述べた通り1杯のクオリティを上げたり、「適正価格がない」とよく言われるラーメン界で自らがプライスリーダーになろうと、決意を新たにしたりする。