ビジネスパーソンにとって、自分が手がけたプロジェクトや商品、サービスが大当たりすることほどうれしいことはありません。しかし、市場のトレンドが次々と変化するいま、「これなら絶対に成果が出る」という戦略を立てることは非常に難しくなっています。
そこで今回は、ビジネスの成功法則を「マーケティング」の視点から全解剖した新刊『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』の著者で、「ファブリーズ」「綾鷹」「檸檬堂」などを次々に大ヒットさせた伝説のマーケター・和佐高志氏に、メガヒット商品の開発秘話を聞きました。
(聞き手は『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏)
社内では「綾鷹は諦めよう」というムードだった
安達裕哉(以下、安達) 和佐さんは2009年にP&Gジャパンから日本コカ・コーラに移られて、「綾鷹」を大ヒットさせています。お茶カテゴリーの担当になったときのことを教えてください。
和佐高志(以下、和佐) 私がマーケティングの責任者になった時点で、お茶カテゴリーにおけるコカ・コーラのシェアは年々低下していました。特に、緑茶については、「コカ・コーラといえばコレ」というブランドが確立できていない厳しい状況でした。
僕が入社する前の2007年に「綾鷹」は既に発売していましたが、2年経っても全然売れていなくて、「綾鷹は諦めて、次のブランドを立ち上げよう」という雰囲気になっていたんです。
ですが、実際に綾鷹を飲んでみたり、工場を改造してまで「お茶のにごり」を実現したというエピソードや、共同開発してくださった京都の老舗「上林春松本店」の話を聞いたりしているうちに、「綾鷹より美味しいペットボトルのお茶はない」という確信を抱きました。
安達 なるほど、「美味しい」が出発点だったんですね。
和佐 まさにそうですね。胸を張って美味しいと言い切れる商品だったので、新たなブランドを立ち上げるよりも、綾鷹をリブランディングすることがコカ・コーラの緑茶を強くする最大の近道だと思いました。
「急須でいれたお茶に一番近い」で大ブレイク
安達 本当は美味しいのに売れていなかった綾鷹を、どうやって大ヒットさせたんですか?
和佐 売れていない原因を分析したところ、容量が420㎖と少なめで値段が約20円高い「プレミアム戦略」が裏目に出ていたことがわかりました。消費者から「自分向きの商品じゃない」「なんかにがそう」と思われてしまっていたんです。
なので、まずは容量を500㎖に増やし、苦そうなイメージを持たれないように「綾鷹」という文字の背景を明るい白に変えて、ポジショニングをプレミアムからメインストリームへ移しました。
さらに、美味しさを的確に伝える言葉として、「急須でいれたお茶に近い味」という表現をCMでアピールし、ラベルの前面にも押し出しました。
「美味しいと思うお茶」だと主観的ですが、「急須でいれた味に近いお茶」という表現は客観性が高いですし、一般の人も「急須でいれたお茶=美味しい」というイメージを持っているはずなので、そこを訴求ポイントにしたわけです。
安達 そのCMは僕もよく覚えてます(笑)。
和佐 ありがとうございます(笑)。当時、緑茶カテゴリーにおける13%のシェアのうち、綾鷹が2%、そのほか茶織と茶花というブランドで11%でした。
そこで僕がとったのは、茶織と茶花を全部やめて、「リソースを綾鷹に突っ込む」という戦略です。
「それで売上が落ちたらどうするんだ」という批判も当然ありましたが、綾鷹に一本化したおかげで、結果的には4〜5年後に緑茶のマーケットシェアが約20%まで上がりました。全体では1.6倍、綾鷹だけでみると10倍ものシェア拡大ができたわけです。
安達 夢のようなストーリーですね。小手先の販売テクニックではなく、そもそもの美味しさに着目したからこその大ヒットだったんだと感じました。