「檸檬堂」はゼロからのスタートだった

安達 コカ・コーラ・ジャパン初のアルコールブランド「檸檬堂」を立ち上げたのも和佐さんなんですよね。

和佐 そうですね。マーケティングの世界に飛び込んだとき、「50年続く定番ブランドを作りたい」というのが僕の夢でした。
 
 ですが、P&G時代も含め、既存のブランドを伸ばしたり、復活させたりはできた一方で、自ら新しいブランドを作って成功させたことはありませんでした。

 そんななか、「檸檬堂」は完全にゼロからのスタートでした。

安達 どんなきっかけでプロジェクトが動き出したんですか。

和佐 企業が成長し続けるには、既に参入しているカテゴリーでのシェアを上げていくだけでは不十分で、全く新しい分野での挑戦もときには必要です。そこで目をつけたのがアルコール飲料でした。

 市場調査をしてみて最初にわかったのは、お店のレモンサワーと、市販のレモンサワーの味が全然違うということです。

 その理由は、レモン果汁の量にあります。お店のレモンサワーはがっつり10~15%入っているのに、市販のレモンサワーの場合は多くても3%。圧倒的にレモン感が弱かったんです。

 なので、お店で出されるレベルのレモンサワーをそのまま缶に入れれば絶対に売れると思いましたね。

安達 なるほど、「本物に近い味」という点で、綾鷹と同じなんですね。

和佐 そういうことです。あまり難しいことは考えず、「本物に近い味」を真摯に追求すれば、消費者はわかってくれるものなんです。

 あとは、パッケージのデザインにもこだわりました。

 競合の商品は、メタリックシルバーにフルーツのシズル感を押し出したものがほとんど。その中に似たような見た目の製品を出しても埋没するだけなので、「シルバー×フルーツのシズル」のデザインは禁止しました。

 そのうえで、レモンサワーが美味しいお店のレトロな雰囲気や和モダンなイメージを軸に考えたときに、酒屋さんがよく使っている藍色の前掛けのモチーフがピンと来たんです。

 「レモンがしっかり入った本格サワー」という商品コンセプトとデザインの世界観ががっちりハマったので、それをブラッシュアップして現在の檸檬堂のパッケージにたどり着きました。

 ただ、酒税が350㎖換算で28円なので、108円で売ると80円しか売上が残りません。檸檬堂はレモン果汁をたくさん使うぶん原価が高めになるので、通常価格よりも20円ほど高くしないと、赤字になってしまいます。なので、結果としてプレミアム価格になりました。

「業界全体の成長」がマーケターの本望

安達 檸檬堂発売の反響はどうでしたか?

和佐 それまで約3000億円だった缶チューハイ市場が、檸檬堂ローンチ後の4~5年で4000億円にまで増えました。

安達 市場全体が大きくなったんですね。

和佐 そうなんです。その4000億円のうち、檸檬堂は約200億円の売上で5%程度のシェアですが、価格が落ちる一方だった缶チューハイ市場に「プレミアム」という新ジャンルを開拓したことで、市場拡大に大きく貢献しました。

 これは、マーケティングやブランドビジネスに1番必要なことでもあります。成長していない市場でシェアの奪い合いをしても、業界全体に対してプラスの貢献はできません。業界全体の成長をけん引したという意味でも、檸檬堂の成功は大変誇らしく思っています。

「なんかにがそう」と敬遠されていた「綾鷹」が2%→20%までシェアを急拡大できたワケ『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』
著者:和佐高志 定価:1760円(税込)

(本稿は、『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』の著者・和佐高志氏へのインタビューをもとに構成しました)

【もっと読む】コカ・コーラ初のアルコール飲料「檸檬堂」はなぜ生まれたのか?