相続を巡るトラブルなどのリスク
「誰も住まなくなった実家」を放置しておくことのリスクは、以上のような直接的なものだけではありません。相続を巡るトラブルなど間接的なリスクにも注意が必要です。
相続では亡くなった人(被相続人)が生前に所有していた財産や負債、権利関係が基本的にすべて、民法の規定による相続人に引き継がれます。
2022年のデータ(相続税がかかったケースに限る)によれば、相続財産のうち多くを占めるのが現金・預金等(34.9%)に続いて土地(32.3%)や家屋(5.1%)といった不動産です。
相続税がかからなかったケースを含めると、おそらく相続財産で金額的に一番大きいのは実家の土地や家屋ではないかと思われます。
他の相続財産に比べて土地や建物など不動産の大きな特徴は、分割しにくいことです。現金や預貯金であればすぐ分けることができますが、不動産はそうはいきません。
例えば、相続人のうちの一人が親の自宅敷地に二世帯住宅を建てて一緒に住んでいた場合、他の相続人としては親の自宅敷地を売却して代金を分割したいと思うでしょう。しかし、二世帯住宅を建てて住んでいる相続人としては自宅を手放さなければならないのでとても同意できません。
こうした場合、親と同居していた相続人が親の自宅敷地を相続し、他の相続人にその相続分に見合った金銭(代償金)を支払う「代償分割」という方法もあります。しかし、自宅敷地を相続する相続人にはそれだけの資金力が必要となります。そこで話がストップし、裁判にまでもつれ込むこともあります。
相続を巡る裁判(遺産分割調停)では遺産が5000万円以下というケースが4分の3以上を占めます。これらの中には実家の土地、建物を巡る争いが相当、含まれるといわれています。
相続登記をしないと過料が科されることも
誰も住まなくなった実家の相続を巡って、さらに注意が必要なのが「相続登記の申請義務化」です。
誰も住まなくなった実家の中には、相続登記をしないままというケースがかなりあるはずです。両親が亡くなったものの子どもたちは皆地元を離れており、登記簿上は親の名義のまま放置されているのです。
以前はこうした状態でも特に問題はありませんでした。もともと不動産登記は所有者の権利を守るためのものであって、義務ではありませんでした。特に相続においては「手間や登記費用を考えると、いまでなくていいだろう」「相続人の間で話し合いがまとまらない」「遺産分割協議が面倒くさい」といった理由から先送りにされることが少なくありませんでした。所有者の住所が変わった際の登記も義務化されておらず、所有者へ連絡をとろうとしても居場所がわからないというケースも多発しています。
その結果、全国に所有者不明の土地がどんどん増えており、公共工事の実施などにおいていろいろ悪影響が出るようになっています。そこで国では不動産登記法を改正し、2024年4月1日からは「相続の開始および所有権を取得したと知った日から3年以内」に相続登記を行うことを義務化する予定です。
2024年4月1日以降、不動産を取得した相続人は、原則として相続から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません(厳密には相続開始を知った日から3年以内)。正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。
注意しなければならないのは、過去の相続も対象になることです。その場合は原則として2024年4月1日から3年以内です(相続開始を知った日のほうが遅い場合はそれから3年以内)。
また、住所などを変更した場合も2026年4月28日までには登記申請が義務化される予定で、こちらは変更があった日から2年以内に登記申請しないと5万円以下の過料の対象となります。
「誰も住まなくなった実家」を放置しておくことは、不動産登記の面からも対応が必要になってくるのです。
一定の条件を満たせば手放すことも可能
なお、国としては空き家のほか所有者が不明な土地が増え続けていることに危機感を持っており、「空家対策特別措置法」の制定・改正や「相続登記の申請義務化」のほか、一定の条件を満たせば空き家やその他の不動産を手放して国が引き取る制度も設けました。
それが「相続土地国庫帰属制度」で2023年4月27日からスタートしています。過去に相続した土地についても対象で、これまでにない画期的な制度といえます。
ただ、「相続土地国庫帰属制度」を利用して土地を手放すには下記の図のような手続きがあり、かなり厳しい審査があること、また一定の負担金を予め納める必要があることには注意が必要です。
(本原稿は、吉原泰典著『「空いた実家」は、