美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、美術知識ゼロの編集者・林が、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』の著者であるご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏に「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく教えてもらいます。
「絵の具」に使われた「衝撃の原料」とは一体!?
山上「さて、実はこの絵についてもう一つ面白いお話があるんです。この絵は何を使って描かれたと思いますか?」
林「何を…。うーん…絵の具!」
山上「はは、そうですよね。これは聞き方が悪かったです(笑)この絵は全体が茶色く見えると思うんですが、「この茶色の絵具の原料は何でしょうか?」というのが正しい質問です」
林「え! 絵の具の原料? そんなの…石かなんかじゃないんですか?」
山上「そうですね、絵の具の色のもとを「顔料」と呼ぶんですが、多くの顔料は鉱物からできています。ただ、それ以外にも人は植物を煮だしたり、虫をすりつぶしたりして多様な色を得ていたんです」
林「ほえ~。考えたこともなかった話です! で、この茶色ですね…難しいなぁ…」
山上「ではヒントをあげましょう。ヒントは「え! そんな気持ちの悪いもの使うの?(汗)」です?」
林「わかった、うん〇」
山上「違います(笑)」
林「ゴキ〇〇」
山上「違います(笑)」
林「え~、もうお手上げです! 一体何が使われていたんですか?(汗)」
山上「はは、これはすごいですよ。ミイラです!」
林「ミ、ミ、ミイラ~? ってエジプトのあのミイラですか?」
山上「はい、あのミイラです。この絵の具は「マミーブラウン(ミイラの茶色)」と呼ばれる絵の具で、豊かで透明感のある色合いから、18世紀半ばから19世紀にかけて非常に人気があったそうですよ。」
林「ほえ~~! え、でもどうやってミイラなんて調達したんでしょう」
山上「実はその頃ナポレオンがエジプトに侵攻したこともあって、ヨーロッパ全土で熱狂的なエジプトブームが巻き起こっているんですよ。そこでミイラを持ってきて顔料にした人がいたんでしょうね」
林「にわかには信じられませんね…。にしてもそんなものを使って絵を描くだなんて…画家たちはなんとも思わなかったんでしょうか?」
山上「いえ、おそらく多くの画家はマミーブラウンと言えども、本当にミイラから作られているとは思ってもいなかったんじゃないでしょうか。実際にラファエル前派の画家エドワード・バーン・ジョーンズはその絵の具がミイラから作られたことを知ると、自分のアトリエからチューブを持ってきて、そのまま庭に埋めたと伝えられています」
林「そりゃそうでしょうよ!(笑)でも、こんな名画の一部になれたんだったら、そのミイラも幸せ者かもしれませんね」
山上「そういうことにしときましょうか(笑)」
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』を元にした著者の書き下ろしです)