直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
歴史上の人物たちの
外交交渉
歴史小説では、偉人同士の交渉のシーンが、たびたびとり上げられます。
有名なものでは、江戸城無血開城を実現した勝海舟と西郷隆盛の会談シーンが思い浮かびます。
西郷と勝が2人で向き合う絵などを見ていると、いかにも膝をつき合わせて丁々発止のやりとりをしているようですが、現実の外交は1対1で進めるわけではありません。
基本的に外交交渉は集団戦であり、しかも長い時間をかけて行われます。
2年に及ぶ強気の交渉
関ヶ原の戦いの後、西軍に属した島津家は、徳川家との和平交渉に臨むのですが、一方で戦いに備えた兵力増強にも努めます。
いざとなれば、決戦も辞さない強気の姿勢で、領地の維持を図ろうとするのです。
結局、交渉は2年にも及び、最終的に島津家は家康から領地を安堵されています。西軍の大名たちが領地を大幅に削られたり、家をとり潰されたりしているのとは対照的です。
交渉事の思い込みに
とらわれない
このように、大きな交渉ほど準備や根回しに時間がかかるものであり、トップ会談が行われる時点では大枠の話はまとまっています。
江戸城無血開城だって、事前に何十人、何百人の人が細かい動きを積み重ねていたはずです。
そう考えると、私たちは歴史的な交渉のシーンを安易に真似ないほうがよさそうです。
歴史的交渉に学ぶ
ビジネス交渉
「トップが出れば話がまとまる」という思い込みにとらわれていると、足元をすくわれかねません。
歴史的な交渉の舞台裏を丹念に調べてみましょう。ビジネスの交渉に使える重要なヒントが見つかるはずです。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。