人が次々辞めていく、上司と部下の会話がない、メンバーのモチベーションが上がらない――コロナ明け、チーム内コミュニケーションに悩んでいる人も多いかもしれない。そんな悩める人たちに話題となっているのが、北の達人コーポレーション(東証プライム上場)・木下勝寿社長の最新刊『チームX(エックス)――ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方』だ。神田昌典氏は「世界的にみても極上レベルのビジネス書」と絶賛した。
これまでのシリーズ『売上最小化、利益最大化の法則』は「20年に一冊の本」と会計士から評され、『時間最短化、成果最大化の法則』はニトリ・似鳥会長と食べチョク・秋元代表から「2022年に読んだおすすめ3選」に選抜。フォーブス アジア「アジアの優良中小企業ベスト200」4度受賞、東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」1位となった木下社長だが、その裏には「絶頂から奈落の底へ」そして「1年でチーム業績を13倍にした」という知られざるV字回復のドラマがあった。しかもその立役者はZ世代のリーダーたちだという。
そこで今回、本書からより深い学びを得ようと、インタビュー企画を実施。本書を読み解くのは、社員約20名時代の楽天に参画し、楽天市場出店者が互いに学び合える場「楽天大学」を設立したのをはじめ、ビジネスからプロスポーツまで幅広い分野でチームづくりの支援をしてきた仲山進也氏だ。『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』をはじめ、多数のビジネス書著者でもある仲山氏は、『チームX』をどう読み解いたのか。連載3回目は、「退職者が続出したときにするべきこと」について話を聞いた。(構成・川代紗生)
このまま続けてていいのかな…
「仕事のモヤモヤ」の原因は2種類ある
――『チームX』では、組織の肥大化にマネジメントが追いつかず、新人教育もままならず、退職者が続出したエピソードが書かれていました。
優秀な人がどんどん辞めていく状況に陥ったとき、リーダーはどんな対策をすればいいでしょうか。「この人の下で働いていても、得られるものがないな」と、優秀な社員をがっかりさせてしまうのは、どんなことが起きたときだと思いますか?
仲山進也(以下、仲山):そうですね。心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」に当てはめて考えるとわかりやすいと思います。
この図は『フロー体験 喜びの現象学』(世界思想社教学社)に書かれていた理論を参考に、ぼくがアレンジして作成したものです。
縦軸は「挑戦の難易度」や「その仕事に取り組むのに感じるプレッシャーの強さ」を、横軸は「能力の高さ」をあらわしています。
「仕事がつらい」と感じたり、いまいち集中できなかったり、なんとなくモヤモヤしたり……。そんな現象が起こるのは、この図の「①不安ゾーン」か「②退屈ゾーン」にいるからだと思います。
たとえば、まだ成長途上の能力が低い人が、高すぎる目標に立ち向かわなければならなくなったら、不安になりますよね。逆に、能力が高い人が挑戦をしていないと、退屈になります。
――なるほど……。わかりやすいです! たしかに、そうですね。
真面目な人が突然「燃え尽き症候群」になる理由
仲山:人が会社を辞めるときのパターンの1つに「燃え尽き症候群」があります。
これをフロー図に当てはめて考えてみると、こうなります。
会社から提示された高い目標に「しんどいな」と思いながら取り組んでいるうちに、だんだん能力は上がってきます。
そのうち達成するとさらに目標が高くなって、結果的にずっと「不安」ゾーンから抜け出せないパターンです。
「不安」ゾーンは精神的エネルギーの消耗が激しいため、これを繰り返しているうちにどこかでエネルギー切れが起こり、挑戦する気が起きなくなる。
これが「燃え尽き症候群」ということではないかと思います。
――これ、すっごく「あるある」ですね……。
身に覚えがあります。真面目で努力家の人が、ある日突然、ぽっきりと心が折れたりしますが、それはこういうことだったんですね。
「スキルアップしているのに仕事がつまらない人」の共通点
仲山:もう1つ、退職を決意するパターンとして多いのは、「やらされ感」が満載の人です。
あまり目標が上がっていかない会社でよくあるケースかもしれません。
最初は高い目標が課されても、「しんどい」と思いながら取り組むうちに徐々にこなせるようになってきます。ここまでは「燃え尽き症候群」になる人と同じです。
ただ、やらされ感満載の人は、手が空いたからといって、自分から「何かやることありますか?」と聞いたりしません。「同じ給料をもらえるなら、なるべく楽をしたほうがコスパが高い」と考えるので、自分から新しいことに挑戦しようとはしないからです。
――なるほど。能力が上がり、仕事に慣れれば、しんどい思いをせずとも仕事を終えられるようになるので、「無理して目標を上げないほうが得」だと思う人もいますよね。
仲山:はい。その結果、「退屈」ゾーンに居続けることになります。
ここでポイントになるのが、「不安」ゾーンにいながら成長する人はいても、「退屈」ゾーンにいながら成長する人はいない点です。
ずっと「退屈」ゾーンにいると、楽して働ける反面、たいした強みも確立できないまま、年齢だけが上がっていくという状態になりがちです。
――「この仕事、楽でいいな」とはじめは思っていても、だんだん「自分、何のスキルアップもしてないけど、将来大丈夫かな?」と焦ってきて転職する、というパターンは多そうですね。
仲山:焦り始めて、いろいろなセミナーや勉強会などに参加する人がいますよね。でも挑戦しないままだと、能力が上がれば上がるほど、「夢中」ゾーンからの距離が遠ざかっていくことになります。
――「勉強はたくさんして、スキルアップもできているはずなのに、年々仕事がつまらなくなる」という人がよくいますが、それは、こういうことだったんですね!
ハードワークでも疲れない「夢中体質の人」2パターン
仲山:最初の質問に戻りましょう。「優秀な人がどんどん辞めていく状況に陥ったとき、リーダーはどんな対策をすればいいか」というと、社員が「フロー(夢中)」ゾーンにいられる環境を整えることが重要です。
夢中体質の人を、2パターン挙げてみました。
1つ目は、左の図。「不安」ゾーンと「夢中」ゾーンを行ったり来たりしながら、難しそうな目標に挑戦し続ける「挑戦マニア」パターンです。
2つ目は、右の図。「仕事を遊ぼう」パターンです。
夢中になって遊んでいる子どもをイメージするとわかりやすいのですが、子どもは同じ遊びに飽きてくると、あえてゲームのルールを難しくして、その遊びに夢中で居続けられるよう、難易度をチューニングしますよね。
――鬼ごっこのルールがどんどんハードになっていったりとか、ありますよね。鬼が増えたり、氷鬼になったり。
仲山:このように、夢中体質の人は、自分がフローゾーンに居続けられるよう、お題や目標のチューニングをするのがうまいんです。「めちゃくちゃハードに仕事しているのに、なぜかいつも楽しそうな人」がこのパターンです。
チームづくりで重要な「目標難易度のチューニング」
仲山:木下社長は、この「お題や目標のチューニング」をし続けていますよね。
『チームX』では、会社の業績がガクンと落ちた「最悪期」から、KPIのチューニングを繰り返すことで「モヤモヤ」の原因を取り除いていき、フローに入れる環境をつくれたことで復活しました。その後、新たな目標を設定する際に、すでに成功体験を得たメンバーたちから「この目標は、低すぎますね」という意見が出て、「過去最高記録の2倍」という目標に修正し、3か月で挑むシーンがあります。
“「できることがわかっているものって、”目標”って言わないよね」
「目標」とは成長のためのツールだ。
現状の延長線上で頑張っている限り成長はない。背伸びしたり、ジャンプしたりして、ようやく手に届くところに目標を置かなければ成長ツールとして機能しない。(本書P191より)”
木下社長らがやったのは、フローゾーンの中でも、④ゾーンから③ゾーンに行くよう、お題をチューニングしたということだと思います。できることはわかっている、という難易度だと④ゾーンです。
「今のやり方だと絶対に達成できないお題」を設定しないと、イノベーションは起こりません。イノベーションが起こるのは、③ゾーンだけです。
楽天で働いていると、三木谷浩史社長が出すお題の難易度がめちゃくちゃ高いので、入社したばかりの人はみんなびっくりするんです(笑)。
――そうなんですか!
仲山:「これ無理じゃない?」というような目標を出され、でも、「やっているうちに、なんとか達成できた!」という体験を3回くらい繰り返すと、もうどんなお題がきても「まあ今回もできるかな、とりあえずやってみるか」という気持ちになってくるんです。
そんな成功体験をしたメンバーが少しずつ増えてくると、だんだん「これだと目標低すぎますね」と、みんなが言い出す空気が出来上がってきます。
メンバーに対する適切なお題の出し方を知りたい、という人には、ぜひ本書を活用してもらいたいですね。