棚一面に即席ラーメン、日本以外のラーメンも
桜井さんは仕事柄、毎年視察でアメリカを訪れ、同じスーパーを定点観測しているというが、そこでこんな発見をしている。
「アジアの食品コーナーの変化が顕著です。特に即席ラーメンの売り場が拡張し、そこには台湾、韓国、中国を原産地とするさまざまなラーメンが並ぶようになりました」
同じことはドイツでも起こっている。ドイツにはアジア食品を扱う専門チェーン「東方超市」があるが、即席ラーメン売り場は拡大の一途だ。日本、中国、台湾、韓国の東アジア勢に加え、タイやインドネシアの東南アジア勢、ネパールなどの南アジア勢などが加わって、陳列棚は“百花繚乱”状態にある。
カップ麺の扱いも増えている。カップラーメンこそ日本の真骨頂で、棚には日清食品の「カップヌードル」や味の素の「OYAKATA」ブランドのラーメンが並ぶ。世界ラーメン協会は、欧州におけるカップ麺需要について「新型コロナによる外出自粛などの影響と、現在に見るインフレが、手頃な価格のカップ麺の需要増に結び付いています」とコメントしている。
本家本元の日本メーカーは少数。陳列棚には中国産の「日本食」も
もとよりドイツは各国から移民が集まる国だ。即席ラーメンの品ぞろえは、ドイツに在住する移民のニーズを表すが、前出の加藤さんは「このラーメン需要は移民だけにとどまらない」と話す。
「ドイツ人が利用するスーパー『REWE』でも、即席麺の売り場が大きくなっています。パン文化のドイツ人が、箸で食べる麺文化を受け入れるようになったのは、アジアの麺類を“革新的な食”だと見ているからではないでしょうか」
求められているのは日本のラーメンだけではないようだ。加藤さんによれば、ベトナムのコメ製のフォーの人気の裏には、小麦麺を食べられない人やグルテンフリーを重視する人の需要があり、日本のそばは、小麦以外の食材で栄養を補えるという意味で注目されつつあるという。アジアの麺にはヘルシーさも期待されている。
欧州の各都市で、中国系や韓国系の個人事業主によるアジア食材店が点在し、コメやしょうゆ、ソースなどの調味料、せんべいや菓子、生ラーメンなどの「日本ならではの食材」も扱っている。だが、棚を占拠するのは本家本元の日本のメーカーではなく、中国に拠点を置く聞いたこともないメーカーだったりする。中国には日本由来の食品を生産する工場が数多くあることの証左でもある。
ドイツのアジア食材チェーン「東方超市」は、その名の通り、アジア各国の食品を取りそろえるが、近年は中国発ドイツ行きの国際貨物列車「中欧班列」が運んで来る「メード・イン・チャイナ」の食材も取り扱う。
果たして、日本からの食材の輸出に今後の伸びは見込めるだろうか。現在は北京に駐在する前出の鈴木さんは次のように指摘する。
「中国人なら各国に散らばる華僑ネットワークで食材の仕入れも可能でしょうが、日本から仕入れができる流通網は果たして十分にあるのかどうか。中国の『中欧班列』を日本企業が活用することもあるようですが、まず列車に積載するコンテナのロットを大きくしなくてはならないため、これをペイさせるだけの物量を出せるかがカギとなります」
世界市場での日本食材の普及には、「商品づくり以上に、一定の供給量を保証する、物流を工夫する、客をマスで押さえることが課題です」と鈴木さんは話している。