幸せに生きるための「理論」を
経営学の大家から学ぶ
私は大企業の新規事業開発やスタートアップのお手伝いをしている関係で、普段からイノベーションについてよく考えます。イノベーションといえば、『イノベーションのジレンマ』のタイトルでよく知られるクレイトン・クリステンセン氏の著書と、この本で紹介された“破壊的イノベーション”という言葉が浮かぶ人も多いことでしょう。
そのクリステンセン氏が書いた『イノベーション・オブ・ライフ: ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』を、新社会人に薦める本の1冊目として紹介したいと思います。
クレイトン・クリステンセン氏は経営学者です。経営学者が書く本の中には読みにくいものもありますが、クリステンセン氏の著作はどれも読みものとして非常に面白くて引き込まれ、それでいて彼の理論がしっかり分かります。まだクリステンセン氏の本を読んだことがない方には、ぜひ手始めに、この『イノベーション・オブ・ライフ』を読んでみてほしいです。
この本は、優秀な知がそろうエリート学校、ハーバード・ビジネス・スクールを卒業したクリステンセン氏の同窓生が必ずしも皆、幸せになっていないことに着想を得て書かれました。彼の同級生には、著名な大企業の幹部や起業して成功した人たちもいます。しかし、必ずしも人生を楽しめていませんでした。中には、エンロンの元CEO、ジェフリー・スキリングのように企業破綻を引き起こした犯罪者として裁かれた者もいました。
クリステンセン氏は、どうすれば幸せな人生を歩めるのかを、経営学者の視点で考えました。人生について語ると言いつつ、この本の内容の半分ぐらいは経営理論の解説です。著者自身や他の研究者による経営やビジネスに関する理論のエッセンスが凝縮され、その理論を個人の生活に応用する方法について書かれているので、さまざまな経営理論のサマリーを読むことができる点でもお薦めです。
クリステンセン氏はまた、仕事の上では「ここで何を経験でき、学べるか」を常に考えることが大事だと述べています。大企業に入社できた若い方でも、社会人になって最初の3〜5年で、30年後に生きていくのに通用するスキルを本当に学べているのかは、よく考えるべきです。
『イノベーション・オブ・ライフ』は10年以上前に出版された本で、伝統的な家族観やクリステンセン氏の固定観念が反映されている部分もなきにしもあらずですが、それでもいまだに参考になる本だと思います。この本を読み終えたら、同じ著者の別の本もぜひ、手にとってもらいたいです。