御衣黄桜珍しい「御衣黄桜」を見ることができる雨宝院(上京区)の通称は「西陣聖天宮」

フィナーレ「御室桜」と珍しい桜を訪ねて

 京都の桜シーズンのフィナーレを彩る遅咲きの桜と、桜の概念を覆すような珍しい種類の桜を最後にご紹介しましょう。3月中旬から約1カ月半にわたる京都桜劇場の終幕を飾るのは、嵐電「御室仁和寺」駅からまっすぐ北上して3分ほど、世界遺産・仁和寺です。888(仁和4)年、第59代宇多天皇が創建して以来、天皇や皇族などやんごとなき方々が歴代の住職を務めた門跡寺院です。

 格調高き御殿を拝観した後は、中門をくぐって左手の桜林へ。江戸時代の頃から庶民の花見スポットとして親しまれ、江戸時代の京名所案内『京城勝覧』の作者で、儒学者の貝原益軒は、「洛中洛外で第一」と称えました。

 こちらに咲く桜は「御室桜(おむろざくら)」といって、樹高が2~3mほどと低く、根本近くから花を咲かせるのが特徴です。硬い岩盤があるためなど諸説が伝えられてきましたが、土壌は岩盤ではなく粘土質で、低木の真相は現在も調査中とのこと。

 ソメイヨシノやシダレザクラは咲く花を見上げることになりますが、御室桜はちょうど目線の高さから足元にかけて桜花が咲き満ちるので、桜林をそぞろ歩いていると、まるで桜の雲海の中を歩いているような心地になれます。たなびく桜の雲に五重塔が浮かぶかのような絶景が広がる、桜林最西端のビュースポットもお見逃しなく。

 ところで、桜といえば白または薄紅色をイメージしますが、花びらが黄緑色で花弁だけほんのり紅色が差す「ギョイコウ(御衣黄)」という珍しい桜もあります。仁和寺の他、第1回でご紹介した平野神社、織物の町西陣にある古刹・雨宝院などでも見ることができますよ。

 最後は、「御室仁和寺」から再び嵐電に乗って、北野線終点の「北野白梅町」駅へ。北野天満宮を越えた千本通沿いにある『源氏物語』の作者・紫式部ゆかりの千本ゑんま堂(引接寺)へ参ります。かつてこの辺りは、鳥辺野(とりべの)、化野(あだしの)とともに三大葬送地とされた蓮台野(れんだいの)の入り口であったことから、死者の罪を裁く閻魔王を本尊としています。

 境内の西端には、高さ6mもの紫式部の供養塔(重文)がそびえています。なぜ閻魔王を祭るお寺に紫式部が…? 

 それは、紫式部が『源氏物語』という壮大な絵空事で多くの人々の心を惑わせた罪を負い、亡くなった後に地獄へ落ちたとうわさされたためです。そんな紫式部を気の毒に思った円阿上人が、1386(至徳3)年、供養のために建てたと伝わります。

 供養塔のすぐそばに咲く「フゲンゾウザクラ(普賢象桜)」は、遅咲きの八重桜で、雌しべの先の形状が普賢菩薩の乗る白い象の鼻に似ていることが名の由来。室町幕府3代将軍足利義満や、第100代後小松天皇も心を奪われたという名桜です。

 3回にわたって桜の都をご案内してきました。「いちばん見たい本命スポットは、朝いちばんに!」を基本に、京都の桜を満喫してくださいね。

普賢象桜かつて将軍や天皇をも魅了したという「普賢象桜」