とにかく残念なリーダーは「部下から嫌われるのを恐れる」。では、優れたリーダーは何を恐れる?
そう語るのは、これまで4000社以上の導入実績がある組織コンサルタントである株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏だ。「会社員人生が変わった」「もう誰も言ってくれないことがここに書いてある」と話題の著書『リーダーの仮面』では、メンバーの模範として働きつつ、部下の育成や業務管理などで悩むリーダーたちに「判断軸」を授けている。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、注目のマネジメントスキルを解説する。(構成/種岡 健)

とにかく残念なリーダーは「部下から嫌われるのを恐れる」。では、優れたリーダーは何を恐れる?Photo: Adobe Stock

「恐怖」の感情を逆に利用する

 人が生きていく上で「恐怖」という感情は大事です。

 人は、事故や災害が起こると、恐怖を感じてそれを回避するように行動します。
 恐怖は、死を避けるための大切なシグナルです
 恐怖を正しく認識し、恐怖を回避するような行動をすれば、人間は生きていけます。

「いま自分は、何を『恐怖』として感じているのか?」

 ぜひ、一度それを考えてみてください。
 そして、感じなければいけない恐怖の種類を間違えていないかを確認しましょう。

 たとえば、課長が自分の身を守ろうと思ったら、「課の成果が上がらないこと」に恐怖を感じなければいけません。
「この瞬間に部下から嫌われる恐怖」が優先されているのなら、それは錯覚です。

「今日は機嫌が悪そうだから仕事を振るのはやめよう」
「タイミングが悪そうだから、報告はやめておこう」

 というように、目の前のことに恐怖を感じてしまうのは間違いです。
 ここで考えるべきなのは、「組織の利益」です。
「組織の利益」が減ることに対して恐怖を感じているのであれば、問題ありません。

 しかし、そうではなく、「自分がこの瞬間、嫌な気持ちになること」に対して恐怖を感じていたとしたら、リーダーとしてNGです
 その判断軸として、「何に恐怖を感じているか」を自らに問うようにしてください。

危機感のある人、感じない人

 10年後、会社が潰れたとしたら、自分は他でもやっていけるだろうか。
 これからの時代は、そんな「恐怖」も感じることでしょう。

「このままじゃダメだ」という危機感があり、それを現在いるところで乗り越えようとすると、「成長」につながります。
 率先して勉強したり、業務を改善したりして、自分で考えるようになるからです

 自らもリーダーとして、そのように考えるべきだし、部下にもそういう機会を与え続けるのが、いいリーダーの姿です。
 それを生み出すのが、「いい緊張感」です。

「どう振る舞っても、何も言われない」
「目標を達成しなくても、何も言われない」

 そんな優しいリーダーの下では、「いい緊張感」が生まれません。
 部下が成長せず、チームとして成果が出せなければ、リーダーは評価されず、いずれは会社から必要とされなくなるでしょう。
 食いっぱぐれる危険性は、こちらのほうが大きいのです。

 だからといって、「恐怖政治をやれ」とは言いません。怖い顔をしたり、言い方を強める必要はありません
 あくまで、「いい緊張感」です。

 そのためには、個人の目標は、いまできることの「少し上」に設定すべきです
 そうすることで、いまとの「差」が生まれ、それを埋めようと努力します。
 そうして目標をクリアしたら、また「少し上」に設定する。その繰り返しです。

適度な「負荷」でより遠くまで導いていく

 そうやって適度な負荷を与え続けることが、リーダーの役目です。
 まったく無理な目標であれば、最初から諦めてしまいますが、ちょっと頑張れば届きそうだと思えば、人は力を出します

 たとえば、筋トレやマラソンは、初日に頑張りすぎてしまうと、体を痛めて続かなくなります。
「もうちょっと頑張れば、まだできそうだけど、ここでやめとこう」
 そう思える限界の手前までを、毎日続けることが、継続のコツです。そして筋力がつき重いものを持ち上げられたり、より長い距離を走れるようになります。

 仕事も同じです。長期的に成長していくためには、「もうちょっと、もうちょっと」を日々、積み重ねることです。
 そのための「いい緊張感」をつくるのが、リーダーの仕事であり、リーダーの仮面の力です。

「言い訳の余地」をなくしていく

「いい緊張感」を醸成していくためのマネジメント法。
 それは、「言い訳をなくしていくコミュニケーション」です。

 部下から報告・連絡をさせるようにあらかじめ指示し、事実を確認するようにコミュニケーションすべきです。
 そのときに、つい部下は「未達だったときの言い訳を考える」という行動をとります。

 あなた自身の、社会人1年目の頃を思い出してください。
 よく「言い訳」を添えて報告・連絡をしていたのではないでしょうか。

 今度は、リーダーとして、その言い訳と対峙する番です

(本稿は、『リーダーの仮面』より一部を抜粋・編集したものです)

安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモ、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)を経て、ジェイコム株式会社にて取締役営業副本部長を歴任。2013年、「識学」という考え方に出会い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2024年4月現在、約4000社の導入実績がある。主な著書に『リーダーの仮面』『数値化の鬼』『とにかく仕組み化』のシリーズ(いずれもダイヤモンド社)がある。