エコライドが勝利した理由とは
もう少し遅ければZipparが制していたかも?
さて、いよいよ本題だ。3社とその乗り物を比較分析してみよう。
泉陽興業は1958年設立のジェットコースターや遊具全般を企画・開発する会社であるが、2021年には都市型ロープウェー「YOKOHAMA AIR CABIN」を開業させており、鉄道関連の法令に基づく公共交通の運営者(鉄道会社)でもある。エコライドが受注を勝ち取れた最大の要因は、この実績にあると筆者は考える。
対するZipparは、各地で実用化の動きがあり、JR東日本出身の技術者を迎え入れるなどしているものの、まだ乗客を乗せて運行しているわけではない。
また、嘉穂製作所のスロープカーは施工例こそ多いものの、鉄道関連の法令を必要としない公園・民間のリゾート施設などへの敷設が主で、同社は正式な鉄道会社ではない。このように、現時点で鉄道会社か、そうでないかという差は明らかだ。
そして、動物園内の乗り物として乗客数が左右される以上、最大で7両1編成・84人が乗車できるエコライドの方が優位である。Zipparは12人乗りの車両を多頻度運行することに適しているが、一方で、車椅子で2人も乗車すればスペースが埋まるほどのコンパクトな造りだ(実験線の車両)。※記事『「空飛ぶ路線バス」Zipparが未来的でカッコいい!運転手不足の救世主になるか?』を参照
Zip社の須知社長は、「Zipparは車両ごとに自走する電源を内蔵している。車両の大型化は可能だが、内蔵するバッテリーの性能による」と明かす。つまり、車両の大型化でも差を付けられている。
加えて、都の資料では、「地形に合わせたルート設定」「ルートに適した車両の形式」を選定の理由に挙げている。線内に急カーブや高低差がある上野動物園の地理条件は、元よりエコライドの方が向いていたのだろう。
エコライドの試験線と違い、神奈川県秦野市にあったZipparの実験線は仮設で、本格的な運行のデータは、福島県南相馬市に建設中の開発拠点の稼働を待つことになる。もし、新拠点でのデータが積み上がった後であれば、結果はまた違ったものになっていたかもしれない。
とはいえ、Zipparは北海道石狩市や、海外ではネパールのポカラ市などで導入の検討が進んでいる。まだまだ、実用化へのチャンスは確実にあるはずだ。上野動物園での一件について、須知社長は自身のnoteに熱量の高いメッセージを記している。国内でも珍しいベンチャー系鉄道会社の今後を見守りたい。