ひと月あまり続いた桜の季節が終わると、京の町はかれんに咲く初夏の花々に包まれます。山吹、ツツジ、牡丹(ボタン)、藤、杜若(カキツバタ)……。ゴールデンウイーク(GW)には、慌ただしい日常に一時の安らぎをもたらしてくれる花の名所と、特別公開される通常非公開の文化財を巡りましょう。(らくたび、ダイヤモンド・ライフ編集部)
平安時代の面影が香る平等院の藤
高貴な紫色の花を咲かせる藤を愛(め)でるなら、『源氏物語』の最終章「宇治十帖」の舞台となった宇治の平等院(世界遺産)へ。京阪宇治線・JR奈良線「宇治」駅から徒歩10分です。
豊かな自然と宇治川の水に恵まれた風光明媚(めいび)な宇治は、平安貴族たちの別荘地として人気を集めていました。平等院は、平安時代中期に絶大な権力を掌握した藤原道長の別荘が前身です。
「世も末」と人々が不安にかられた平安時代中期(1052年)、道長の息子・頼通が別荘を寺院に改めて、その翌年に阿弥陀堂(鳳凰堂)を建立し、極楽浄土をこの世に出現させたのです。
藤の花は、寿命が長く、繁殖力も強いため、古来縁起のよい花とされてきました。藤原氏は、藤の花の模様を衣装に織り込んだり、藤の花を愛(め)でる宴を開いたりし、一族の象徴として藤の花を好んだようです。
平等院の境内には、3カ所の藤棚があります。表門手前のだるま藤、南門そばのノダフジ、もう一つが鳳凰堂の手前に広がる阿字池(あじいけ)のほとりの藤で、樹齢280年ともいわれています。棚いっぱいに枝を広げ、花房は長いもので1mを超えることから、「砂ずりの藤」と呼ばれています。
花房が薫風にたなびくさまが平安の雅(みやび)を感じさせ、いつまでも眺めていたくなるほどです。例年の見頃は、4月中旬~5月初旬。藤の花の見頃が過ぎると次の年の開花に影響がないよう剪定(せんてい)を行うため、こちらで開花情報を事前に確認して訪れましょう。
鳳凰堂は阿字池越しに眺めるだけでなく、ぜひとも内部拝観を。大仏師・定朝(じょうちょう)が作り上げた阿弥陀如来坐像(国宝)は、人々を温かく包み込むような柔和な表情をたたえています。阿弥陀様の周囲に雲中供養菩薩が楽器を奏でながら空を舞う極彩色の空間は、極楽浄土を今に見るかのようです。