世界に多大な影響を与え、長年に渡って今なお読み継がれている古典的名著。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されている。しかし、そのなかには非常に難解で、読破する前に挫折してしまうようなものも多い。そんな読者におすすめなのが『読破できない難解な本がわかる本』。難解な名著のエッセンスをわかりやすく解説されていると好評のロングセラーだ。本記事では、フランシス・ベーコンの『ノブム・オルガヌム』を解説する。
自然の実験的探求によって得られた知識は、その利用によって人類の進歩に貢献する力となる。今ではあたりまえのことだが、それを最初に方法論としてまとめたのがフランシス・ベーコンだ。この書のおかげで、科学に囲まれた私たちの快適な生活がある。
科学的知識で自然を支配するという考え方のスタート
ベーコンの思想は、現代の科学技術に大きな影響を与えています。
ベーコンはルネサンスという時代の中で、古い考えを根本的にしりぞけて、新しい実験科学による学問方法を確立しようと考えました(大革新の思想)。
『ノブム・オルガヌム』は、多くのアフォリズム(箴言)を集めた形式の未完作品です。
アリストテレスの論理学の著作は、「学問研究のための機関(道具)」、あるいは「方法」の意味を含んでいることから、オルガノンと呼ばれていました。
これに対して、ベーコンは、新しい論理学を樹立しようとして「ノブム(新)・オルガヌム」という表題にしました。
『ノブム・オルガヌム』には、「人間の知と力は同じ一つのものである」と記されています。
これは、一般に「知は力なり」と表現されています。「知は力なり」というと、「知識をもっているといろいろとパワーが出る」という自己啓発の標語のように理解されがちですが、そういう意味ではありません。
「知」=「科学的な知識」、「力」=「自然をあやつる力」とズバリと定義づけられた力です。
科学的な知識をもって様々な実験をすれば、自然の法則を発見することができ、技術によって私たちの生活を豊かにすることができる。
ようするに「科学的知識による自然支配」という内容です。
パソコン、自動車や電車、建築、医療などすべてはこの科学技術によって自然を支配していくという根本的な思想がスタートになっていたというわけです。
また、ベーコンは4つのイドラ(偏見)を取り除くことによって、正しい知識が得られるとも説いています。
偏った見方を排除する科学的な方法
まず、ベーコンは、真理と効果が表裏一体であるような新機軸の学(今で言う実験科学)について説明します。
彼は、当時のスコラ哲学(キリスト教哲学)は裏づけの乏しい原理から「クモ」の巣のような不毛な論理を展開していると批判しました。
また、錬金術師が行っているような断片的な経験をアリのように集める方法も批判されます。
ベーコンによると、様々な種類の花から同じ蜜を作り出すミツバチこそ見習うべきだというのです。
この実験と観察によって、多くの事実を集めて整理し、一般的な原理を導き出すという方法は、「帰納法」と呼ばれています。
ベーコンの「帰納法」は、ある事例の現れる「現存表」、類似の状態でそれが現れない事例の「不在表」を作成し、さらには、各種の条件が異なった場合の「比較表」を作成して、それを比較しながら科学的な結論を導いていきます。
たとえば、熱の本質を探る場合、まず熱の現象の事例をまとめます。次に熱の生じていない事例を集め、それぞれを比較して熱の原因でないものを除去していく、というようなやり方をとります。
ベーコンは、「自然は服従することによってでなくては征服されない」と主張しています。服従するとは自然を観察するということです。
「諸学の正しい真の目標は、人間の生活を新たな発見と富によって豊かにすること以外の何ものでもない」(同書)
スマホ、パソコン、自動車から建築、冷暖房、薬品のみならず、コンタクトレンズ、シャンプーなどありとあらゆるものが「知は力なり」の恩恵をうけています。
ついつい、現代の日常生活があたりまえのような気がしますが、身の回りのありとあらゆるものが科学の力で成り立っていると考えてみると、驚きを禁じ得ないのではないでしょうか。
富増章成(とます・あきなり)
河合塾やその他大手予備校で「日本史」「倫理」「現代社会」などを担当。
中央大学文学部哲学科卒業後、上智大学神学部に学ぶ。
歴史をはじめ、哲学や宗教などのわかりにくい部分を読者の実感に寄り添った、身近な視点で解きほぐすことで定評がある。
フジテレビ系列にて深夜放送された伝説的知的エンターテイメント番組『お厚いのが、お好き?』監修。
著書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken)、『日本史《伝説》になった100人』(王様文庫(三笠書房))、『図解でわかる! ニーチェの考え方』、『図解 世界一わかりやすい キリスト教』『誰でも簡単に幸せを感じる方法は アランの『幸福論』に書いてあった』(以上、KADOKAWA)、『超訳 哲学者図鑑』(かんき出版)、『オッサンになる人ならない人』(PHP研究所)、『哲学の小径―世界は謎に満ちている!』(講談社)、『空想哲学読本』(宝島社文庫)など多数。
【著者からのメッセージ】
私たちはなぜ本を読むのでしょうか。それは「本は人類が積み上げてきた叡智のアーカイヴだから」です。本は、人に知識や喜怒哀楽すべての豊かな経験を与えてくれる存在です。ときに読んだ人の人生を変えてしまう本だってあるでしょう。
この本で紹介しているのは、本のなかでも特に多くの人に読み継がれていたり、あるいは数千年という時を経ても今なお読まれている本、つまり「名著」です。
「名著」にはそう呼ばれるだけの理由があります。たとえば多くの人が今悩んでいることのほとんどは、この長い歴史上で誰かがすでに徹底的に考えていることです。紀元前という昔に遡っても、人間はやはり人間なのです。だから、もしあなたに悩みや、疑問に感じていることがあるなら、それらの答えのヒントはほぼ「名著」のなかにあるのです。
「目標がないし、やる気も出ない」「思考が乱れて集中できない」「健康なのに、なぜか疲れを感じる」「勉強したいが、どこから何をしたらいいのかわからない」「働いても働いても、楽にならないのはなんでだろう」「歳をとってきて、だんだん楽しみが減ってきた」
そんな悩みは、この本で紹介する「名著」のエッセンスを手に入れればたちまち解決するはずです。自分で思い悩むよりずっと気分が晴れること、請け合いです。
ところで、「名著」の多くは、とても難解で、それでいて分厚いものが多いです。しかし、名著が難解なのには、実は理由があります。分厚い古典的「名著」は、その時代背景と常識を前提として書かれているので、多くの場合、現代の私たちにとっては説明不足なのです。また、その学問世界の専門用語を「知ってるんでしょ?」という前提のもとに書かれていますから、こっちはわかるわけがない。
「名著」は、下手をすると一冊をしっかりと理解するのに20年以上かかります(それでも、さらに疑問は増えていきます)。普通に生きて普通に暮らしている私たちには、そんな時間はありません。つまり、「名著」とは基本的に「読破することができない本」なのです。
人生は短い。だからこそ「名著」をまず、おおざっぱに理解して、興味が出たら原典にあたればよいのです。この本では、古今東西の「名著」のうち哲学から心理学、経済学まで選りすぐった60冊のエッセンスをイラストとともにわかりやすく解説していきます。
※収録した60冊は、『ソクラテスの弁明』(プラトン)、『方法序説』(デカルト)、『実践理性批判』(カント)、『現象学の理念』(フッサール)、『歴史哲学講義』(フッサール)、『ツァラトゥストラはこう言った』(ニーチェ)、『存在と時間』(ハイデガー)、『存在と無』(サルトル)、『自由からの逃走』(フロム)、『社会契約論』(ルソー)、『資本論』(マルクス)、『論理哲学論考』(ウィトゲンシュタイン)、『グーテンベルクの銀河系』(マクルーハン)、『ポストモダンの条件』(リオタール)、『複製技術時代の芸術』(ベンヤミン)、『アンチ・オイディプス』(ドゥルーズ&ガタリ)、『21世紀の資本』(ピケティ)など。
もちろん原典と比べてその情報量は雲泥の差です(本書の場合、500ページ以上ある本も見開き4ページにまとめているのだから)。でも、なんにも読まないよりずっといいでしょう? そう思いませんか。分厚い本を一冊買って、読まないで部屋に飾っておくより、本書を電車の中で読んだほうがよいのではないでしょうか。
必ずしも時代順になっていないので、どこから読んでもOKです。パラッとめくって、全体を眺め、どんなふうに自分の役に立ちそうかを考えます。それぞれの本は、関連を他のページとリンクしてあります。つながりの意味については、本書の冒頭に収録した「ひと目でわかる名著の関連図」を参照してください。
ぜひ本書を活用して、自由な思考法を手に入れて、人生の難問解決をはかり、明日に向かって進んでください。きっと、すばらしい未来が広がっていくことでしょう。