大人の歯列矯正やインプラントは
控除の対象になる?

 義務教育に当たる小・中学生は間違いなく「子ども」と判断できそうだが、たしかに高校生は3年生になると18歳、成人年齢だ。国税庁は年齢基準を明確に示していないので、どう解釈したらよいか国税出身の税理士に聞いてみた。

 同税理士によれば、「子どもの判断基準はひとくくりにできない。義務教育期間であれば税務署も認めるだろう。だが、高校生も審美的な治療でなく、将来的に健康上の問題が出てきそうだと歯科医が判断すれば医療費控除の対象になるだろう。18歳くらいまでなら『子ども』と考えて差し支えないのでは」と言う。

 さらに、前掲の「歯の治療に伴う一般的な費用が医療費控除の対象となるかの判断」(*2)は、次のようにも述べている。

(1)歯の治療については、保険のきかないいわゆる自由診療によるものや、高価な材料を使用する場合などがあり治療代がかなり高額になることがあります。(中略)現在、金やポーセレン(*3)は歯の治療材料として一般的に使用されているといえますから、これらを使った治療の対価は、医療費控除の対象になります

 ここでは、大人・子どもという基準を示さず、「自由診療」「高額な材料を使用する」治療も医療費控除の対象となる旨が示されている。 

 前掲(2)と上記(1)を併せて考えると、審美的な目的ではなく、咀しゃく改善、あるいは回復が目的である場合は、子どもはもちろん、大人でも歯列矯正の費用が医療費控除の対象になるのではないか。国と日本歯科医師会は「8020運動」(*4)を推進しているし、先日も、歯の喪失が認知症のリスクを上昇させることが東北大学大学院の研究で明らかになった(*5)。

 こんな背景を考えても、健康維持のための改善や回復目的での歯列矯正には、医療費控除の対象になる可能性があると考えてよいだろう(図表1)。

 ただし、税務申告の際には「咀しゃく改善・回復」が目的であることを証明できるようにしておかなければならない。歯科医院でもらう領収証を保存することはもちろん、領収証の余白に「咀しゃく改善のため」といったただし書きを書いておくのも一案だ。間違いないのは、歯科医院に診断書を発行してもらうことだが、発行には別途費用がかかるので、治療を行う前に医療費控除の還付申告をしたい旨を相談しておいた方がよいだろう。

 なお、喪失してしまった歯をインプラントで治療する際にも、医療費控除が適用される(審美目的は不可)。健康保険の適用対象外であり、人工歯1本当たり30万円とも50万円ともいわれる高額を100%自己負担することになるので、医療費控除の申告は必ず行うようにしよう。

*2 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例(国税庁)
*3 金やポーセレン(歯科治療用の陶材)は健康保険診療の対象外
*4 「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という運動(厚生労働省)
*5 東北大学大学院歯学研究科の発表による