芸備線の存続は不可能なのか? 
やろうと思えばできるシンプルな一手

 芸備線に関する再構築協議会で、赤字を何とかしたい国やJR西日本に対して、沿線自治体は以下のように主張した(筆者要約)。

・JR西日本はもうかっていて、24年3月期の連結営業利益は1400億円に上る見込みだ。7億円の赤字を内部留保で補填できないことに、詳細かつていねいな説明を求める
・不動産事業などの利益で鉄道事業の赤字をカバーすれば良い。さらなる経営情報の開示を求める
・鉄道存続に必要なファクトとデータはあり、手応えを感じている(筆者注:具体的な数字は言及していない)

 再構築協議会が始まる以前の主張に輪をかけた、集まった報道陣の一部もあきれるような内容だった。現状、両者の隔たりは非常に大きい。

 それでは、芸備線の存続は不可能なのか? 実は、そうとも言い切れない。各地でローカル線が存続する事例も出てきている。代表的なのが下記の2例だ。

・JR只見線(福島県~新潟県)
豪雨災害により長期運休していた区間の復旧で県と市が約60億円を負担、上下分離(設備を自治体が保有。鉄道会社側の維持費用や税金の負担がなくなる)。再開後も年間3億円の運行経費を自治体が負担

・JR城端線・氷見線(富山県)
JR西日本から150億円を拠出、プラス県の負担で車両・設備を改良し、3セク私鉄(あいの風とやま鉄道)に移管

 鉄道存続へのシンプルな一手は、「自分たちで責任を持ち、資金を負担する」ことだ。高確率で存続を勝ち取れる上に、国の補助やJRからの資金面・運営面でのサポートを得ることもできる。

 ところが、芸備線の場合は、億単位の予算がかかる鉄道のブラッシュアップを避け、数百万円規模でできる利用促進イベントと愛着のアピールに終始し、減便の度に嘆くだけだった。鉄道存続を勝ち取った地域と比べると、他力本願と言わざるを得ない。

 再構築協議会は、自治体のこうした他人任せマインドを断ち切り、自立を即する狙いもあるだろう。繰り返しになるが、地域が資金を出して鉄道運営に汗をかけば、ローカル線であろうと生き残る可能性は高い。

 再構築協議会の前から芸備線の乗客増へのアプローチは行われているものの、「高校生22人に定期券1カ月分を配布も、鉄道通学に切り替えたのは2人」だったり、「イベントで1000人集客も、芸備線で来訪したのは70人」だったりと、全くパッとしない。実際、断続的な増便実験(通勤・通学時間帯の増発など)を行っても定着しておらず、自治体が言う「芸備線存続に必要なファクトとデータ」が積み上がっているとは、とうてい思えない。

 協議会が開催される3年間で、状況を覆す数字を出せるのか。もしくは無条件での優遇(内部補填)を求める姿勢を変え、鉄道への愛着を資金負担で示して存続を勝ち取るのか。際限がないローカル線の赤字補填に悩むJR各社はもちろん、ローカル線の存続に悩む地方自治体も、再構築協議会の行方を見守っていることだろう。

乗客は1日13人…JR西が困り果てる「赤字ローカル線」1ミリも譲らない地元自治体の言い分とは?芸備線沿線で開催したイベントの来場者内訳。庄原市の資料より
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乗客は1日13人…JR西が困り果てる「赤字ローカル線」1ミリも譲らない地元自治体の言い分とは?JR高山本線。富山県は「JRの黒字路線からの内部補助は限界」と明言し、予算を出して改善に動いている Photo by W.M.