「囚人のジレンマ」で読み解く中東情勢
この状況がいかに不安定であるかを、端的に説明する理論がある。「囚人のジレンマ」だ。
これは、数学者のジョン・ナッシュが構想した「ゲーム理論」の中心的成果の一つ。ゲーム理論とは、2者(以上)のプレーヤーの行動の相互作用がどうなるかを予測するための理論だ。
イスラエルとイランという2カ国の状況を分析するのに、ゲーム理論は最適である。ここでは、簡便化のために、イスラエルとイランがそれぞれ「攻撃する」「攻撃しない」の2択で考えているとしよう。
今回は、お互いに「(大規模な)攻撃はしない」を選択した。その結果はもちろん、“和平”である。
これが双方の国民にとって幸せな結論であることは言うを待たない。すなわち、「和平が状況における最適解」である。
だが、イランにとっては、イスラエルがいかなる選択をしようとも、「攻撃をする」ほうが自分にとって望ましい結果となる。攻撃しない方が、イランにとってはむしろ非合理な判断なのである。
もしイスラエルが十分な反撃ができない(攻撃しない)状況なのだとすれば、イランは積極攻勢を取り、中東の地からユダヤ人国家を排除するという悲願を達成できる。
逆にもしイスラエルが自分たちへと積極的な攻勢を画策しているのであれば、イランは応戦するほかはない。応戦しなければ自分たちは滅ぼされてしまうのだ。
お気づきだろうか。イスラエルが攻撃するにせよしないにせよ、イランにとっては常に攻撃を仕掛けるほうが自分たちの理想にかなう行動となる。イランは、相手の状況を見ながら、常に「攻撃をする」という選択肢を取るタイミングをうかがっているといえる。