上司・管理職のバイブルとして世界で1300万部を超えるベストセラーとなった名著『1分間マネジャー』を送り出したケン・ブランチャードらが、リーダーシップについて著した『1分間リーダーシップ』。そして、その改訂新版が本記事で紹介する『新1分間リーダーシップ』だ。過去40年間にフォーチュン1000の優良企業のほとんどで、また世界中の急成長する新興企業で伝授されてきたリーダーシップのモデルとは?(文/上阪徹)
どんな部下にも通用するリーダーシップとは?
リーダーは、どんなマネジメントを行うべきなのか。実践的でわかりやすく、使いやすいアプローチはないものか……。リーダーの誰もが求める新しいリーダーシップの考え方を平易に説いたのが、『新1分間リーダーシップ どんな部下にも通用する4つの方法』だ。
本書は共著の形になっているが、著者の一人は、ケン・ブランチャード。65冊の共著書があり、世界の47言語に翻訳され、合わせて2800万部超の売り上げがあるという世界で最も影響力のあるリーダーシップの権威である。
そして本書に登場するのが、世界で1300万部を超えるベストセラーとなった彼の名著『1分間マネジャー 部下を成長させる3つの秘訣』の主人公「1分間マネジャー」。その「1分間マネジャー」から教えを受け、働き過ぎの起業家が新しいリーダーへと成長、多様なチームメンバーの力を最大限に引き出す方法を学んでいく姿を、ストーリー仕立てで描いていく。
適合するリーダーシップスタイルは、変わっていく
「1分間マネジャー」は、自らの部下に会って話を聞いてもらうことで、起業家の女性に「新しいリーダーシップとは何か」を伝えていく。
それは「状況対応型リーダー」というものだった。
メンバーの発達レベルに合わせて、「指示型」「コーチ型」「支援型」「委任型」の4つのリーダーシップスタイルを変えていく。そして、起業家の質問に「1分間マネジャー」はこう応えた。
「1分間マネジャー」は、息子のトムの話を始めた。あらゆるタスクにおいてレベルが同じ人などいない、という裏付けにもなる、と。
得意な授業と苦手な授業が同じスタイルでいいか
「1分間マネジャー」の息子のエピソードは、まさに適合するリーダーシップスタイルを変えていくことの重要性を教えてくれる。
何年も前、「1分間マネジャー」の息子が5年生のときだった。学校の勉強で、読解は同級生よりも1年進んでいて、算数では1年遅れていると聞かされた。「1分間マネジャー」は原因を突きとめ、担任の先生のうちの一人に連絡を取った。
クラスの人数50人に対して、4人から5人の先生が各教科を担当していた。先生たちに面会に行き、読解の授業をどうしているのか、聞いてみた。先生はこう語った。
「指示型」「コーチ型」「支援型」「委任型」の4つのリーダーシップスタイルのうち、読解の授業では「委任型」スタイルがとられていた。そして読解では、息子の発達レベルは「好きで、得意」でもあった。だから、「委任型」スタイルがぴったりだったのだ。
ところが、算数のときにどうしているのかと聞くと、読解のときとまるで同じだった。しかし、息子の算数は1年遅れていたのだ。発達レベルは「嫌いだし、できない」。にもかかわらず「委任型」スタイルが取られていたのだ。これでは、まるで放任である。
そこで「1分間マネジャー」は、先生の中で最も伝統的なタイプの先生は誰かと尋ねた。指示型リーダーシップの典型例のような先生だった。しかし、この先生に息子の算数を任せることにした。
「1分間マネジャー」が、どうするつもりかと聞くと、先生はこう答えた。
それから机まで連れて戻り、座らせてこう言います。「さあ、1番から3番までの問題をやりなさい。5分たったら戻ってきて答えを聞きますからね。私と一緒に勉強すれば、算数の成績はよくなりますよ」と』(P.93-94)
それを聞いて、「1分間マネジャー」は、こう言うのである。それこそ息子が求めていたものです。息子の算数を見てやってください、と。
初期段階で優れたリーダーだったとしても
新しい算数の先生のもと、「1分間マネジャー」の息子の算数の成績は上がった。とはいえ、息子が監督やコントロールを喜んだわけではない。ただ、「1分間マネジャ−」は起業家とこう会話を交わすのだ。これは、企業におけるメンバーマネジメントにも言えることだろう。
「あなたが言いたいのは、あるタスクにおいて技能のない人には、だれかが指示を与え、コントロールし、監督する必要がある。さらに意欲もないという場合には、支援や激励も必要ということですね」(P.94)
そして、息子の幸運についても触れた。それは、学期末まで3ヵ月しか残っていなかったこと。算数を教えた先生には、欠点があったからである。「指示型」「コーチ型」「支援型」「委任型」の4つのリーダーシップスタイルのうち、「指示型」から「コーチ型」への切り替えが先生にはできた。
しかし、「支援型」や「委任型」への切り替えはできなかったのだ。初期段階においては、素晴らしい先生だった。しかし、子どもが算数のスキルを覚え始めたとき、子どもの自主的な学習を増やしていくことができない人だったのだ。
これは企業におけるリーダーシップでも同様だ。初期段階において優れたリーダーシップスタイルが取れたとしても、それがその後も継続できるとは限らない。メンバーの成長に合わせて、自主的に行動できるよう「支援型」「委任型」に切り替えていかなければいけないということだ。
「1分間マネジャー」は、部下の技能や意欲を伸ばしていくために、5つの段階を踏んでいくようメンバーに教えていた。
第二段階 “やって見せる”
第三段階 “実践させる”
第四段階 “観察する”
第五段階 “進歩を認めてあげる”
加えて、次なる手段もあった。それが進歩がみられないときには“目標の修正をする”だ。そして最終的なリーダーの目標について、老子の言葉で紹介している。
最高のリーダーの仕事が終わったとき、部下たちは言う。「自分たちの力でやり遂げた!」と。
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。